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夕 凪 大 地

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「猫言」

にゃんにゃん続き。


 テッドはキキョウを引っ張って同じ階にある医務室を訪れていた。
「……私が調合したと?」
「そうは言ってない」
 解毒剤をくれと頼んだはずが、ユウへ剣呑に睨まれる羽目になっている。テッドの話し方がぶっきらぼう過ぎるせいだ。キキョウ以外の他者に対して分厚い壁を築いてしまい、できるだけ距離を置こうとする後ろ向きな心理が、口調をぞんざいにさせている。
「…にゃあ……」
 テッドに腕を掴まれたままのキキョウがしゅんとうなだれた。その繋ぎ目をなぜか陰湿に一睨みする医者である。
「いいですよ、解毒剤を作ってみましょう」
「…にゃん」
「ではまず診察を」
「…にゃ」
 ユウはベッドを指し示し、キキョウの肩を抱き寄せた。反対の手の甲をテッドに向けてしっしっと強く振ってくる。
「――じゃ、キキョウ、俺はこれで」
 追い払われて、テッドは医務室の外に出た。だがどうしてかこの場を立ち去る気になれない。テッドは閉めた扉へそっと凭れかかる。
 間もなくオベルを奪回するという大事な時期にも関わらず、この船の連中はリーダーを平気で傷物にする。これまでだってキキョウがまともに動けない日がいったい幾度あったことか。幸いにしてリーダーを支えんとする結束力は抜きんでているように思えるが、そもそも前提としてキキョウの身体を皆が労わるべきだろう。
(まぁ……あいつにも原因がないわけじゃねぇけど……)
 キキョウも不憫な性質だ。本質的に、屈服させたくなる目をしている。もちろん守ってやりたくなる愛くるしさも具えるけれど、同時に支配下へ組み敷きたくなる妙な色気を持っているのだ。
 目が離せない。そう思うテッドもまた、キキョウの誘惑に魅せられる一人なのかもしれない。
「ん?」
 そこでふと、テッドは医務室に妙な様子を感じ取った。
 今まさに考えていた類の気配である。焦る気持ちをひとまず抑え、テッドは凭れていた扉へ静かに耳を押しつける。
「…っにゃ、ん」
「ほら、ここもちゃんと触診しないと解毒剤は処方できませんよ」
「…にゃあああっ……」
 ――やっぱりここの連中ときたら!
 揃いも揃って無神経だ。周りにこんなヤツらしかいないがためにキキョウは苦しめられるのだ。怒りだか呆れだか判別のつかないムカつきで胸がいっぱいになる。いや、悲しくなる。
「おい! このヤブ医者野郎!! ソウルイーターに食わせっぞ!!」
 がん、とテッドは思い切り、医務室の扉を蹴りつけた。


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