あまーーーぁい兄ティエ!
…に、なってたらいいんですが…。
「シようぜ」
勝手に人の部屋へ入り込んできたと思ったら開口一番、これだ。ロックオンに自室のロック解除キーを知られたことが敗因だろうか。パイロットスーツを脱ぎ終えたばかりのティエリアは、素肌にとりあえずシャツを羽織って首だけ振り向き、不躾な来訪者を睨み付ける。
「……嫌です」
「へぇ、何をするかは察したわけだ」
拒んでもすぐに揚げ足を取られる。それが嫌かと言うと実はそれほどでもなくて、むしろ胸のじりじりするような、もどかしく、収まりが悪いのにあえて体感したくなってしまう不可解な衝動に囚われるのだ。だから余計に性質が悪い。
ロックオンは壁に手を突いてくつくつと笑っている。かすかに動く咽喉元へティエリアの目が吸い寄せられる。慌てて顔ごと逸らしたものの、頬の血流が一気に盛んになるのが分かる。
威圧的な歩みでティエリアの正面へ回ると人のベッドに我が物顔で腰掛けて、ロックオンは改めて、にやりと口角を上げてみせた。
ロックオンの一見軽薄そうな態度が無性にティエリアの神経を刺す。ティエリアを優しく包み込む腕や真摯に未来を囁く言葉、ティエリアだけに見せてくれる甘い態度をすでに知っているからだ。あの蜜のような彼を何とか引きずり出してやりたい。だが方法が分からない。ティエリアは考えながらベッドを見下ろして言う。
「貴方がいつもそういう誘い方をするからでしょう?」
「いつも、ね」
「いつもじゃないですか。昨日も一昨日も、毎に……ッ」
言い募りかけ、ティエリアははっと口を押さえた。
「そうだな、毎日、俺のをたっぷり突っ込まれてひぃひぃよがってんだよな? ティエリア」
「ロックオン……!」
だがもう遅い。聞きとがめたロックオンはあえて低俗な言い方を選び、ティエリアはあまりの羞恥に両手で顔をぎゅっと覆った。
もちろん本来のロックオンらしからぬ発言だ。ティエリアは薄々、ロックオンが自分のポーカーフェイスを崩したがっているのではと推量している。そしてティエリアも、崩れた自分を決して見せたくないとは思っていないのだ。むしろ見てほしい、貴方にだけは、と願う自分をうまく隠しきれないでいる。
「……ロックオン」
ティエリアは許しを請うようにちいさくちいさく呟いた。
「来いよ」
すると途端に、ティエリアを招き寄せるは打って変わった甘い声。
ティエリアはぱっと顔を上げた。張り詰めていた息を漏らす。しばし躊躇うも素直に頷く。ロックオンの浮かべる微笑が混じり気のない愛しげなものに変わったことを、どこか安堵の思いで見つめる。
差し出された手へ重ねる己の指先が桃色に彩られるのを見届けたきり、あとはロックオンにすべて委ねて目を閉じた。
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