2年前の4月です。
パラレルテド+よん。
これ書くために折り紙をものすごく調べて、今でもその時のブクマが残ってます(笑)
でも完全に書きかけで放棄。
折り紙を買う男子中学生は傍目にかなりヤバかったろう。文房具屋のパート店員なぞ無表情すぎる無表情だった。失笑してでもくれたならまだ弁明する余地があったのに。
帰宅早々制服のまま、テッドはダイニングテーブルへ鞄を乱雑に放り投げる。中で筆箱のがちゃんと暴れる音がする。ネクタイの結び目を引っ張り第三ボタンの下までゆるめて、至極かったるく一息ついた。
「…テドに」
「おう」
テッドより帰宅時間の早い弟だ。廊下の影から躊躇いがちに顔を出す。キキョウ、と呼んで、テッドは手招き座るようにとテーブルセットを指差した。示してやるまでキキョウは何もしないのだ。
「…おかえりなさい」
それでもようやく自主的にできるようになった挨拶をそそくさ呟くと、キキョウはいやにゆっくり木製の椅子へ腰掛けた。テッドは視線を走らせる。また膝小僧を擦り剥いたのだ。かさぶたになる前の傷が赤く滲んでいる。
「それ。消毒したのか?」
「…ううん」
「バンソコ貼っとくか」
「…うん」
「後でな」
「…うん」
喋りながらテッドは部屋の隅にある冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、これまた部屋の隅にある食器棚のマグカップ二つへ中身を全部注ぎこんでいた。四月下旬の晴天ともなればけっこう気温の高い日中、あえて部屋の隅にある電子レンジへマグカップをまとめて突っこんだのは牛乳の賞味期限ゆえだ。居間の一隅にキッチンが据えられている典型的なダイニングルームだからこそ二日前の期限を鑑み手間をかけてみる気にもなる。
やっぱ絆創膏はこっちにねぇなと一通りキッチンを見回してから、テッドはキキョウの向かいへ座った。チンしたカップを二つともどかんと二人のちょうど真ん中へ置く。
「ま、飲めや」
「…うん」
この状況から、いちいち飲んで良いと言われずとも、二つのうち一つは自分のために用意されたものであるとキキョウが解釈できるようになる日。いつか来るのだろうか。いつか。
テッドは鞄をがさがさ漁って買ってきた折り紙を取り出した。開封すると、折り紙特有の、真新しい紙と印刷インクの混合したような不思議な匂いが辺りに漂う。懐かしい。
さっそく袋から青色を出して、テッドは思った。――こんなに小さかったっけ。
高校帰りに恥を忍んで買ってきた折り紙は一辺が十五センチの正方形、テッドの広げた手がはみ出るくらいの大きさだ。金と銀が一枚ずつ、その他の色が二枚ずつ。至って普通の商品である。
だが昔は、テッドが幼稚園か小学校低学年で折り紙を折らされていた頃は、折り紙というものはもっと大きく硬い紙だと思っていた。折り紙の品質が変わったわけではないからテッドが成長したのだろう。
一年前に弟ができてからというもの、このどこかずれたような感覚をテッドは頻繁に味わっている。小学生と中学生の違いは七年間と数字にするよりはるかに大きいものなのだ。服や靴のサイズ、算数ノートのマス目の大きさ。他にも、食べ残し、をするはずがないから時間内に食べられず持って帰ってきたらしい給食のコッペパン。当時体験した時の認識と、今になって弟を通じ再体験する時の認識に戸惑うほどの誤差がある。
はっと我に返った。折り紙の青い面を下にしてまずは三つに折った。蛇腹にする。次に上へ重なっている部分の両端をそれぞれ斜め上に中側へ折って、最奥は右側を斜め下へ折る。
テッドは決して丁寧な方じゃない。角と角がぴっちり合わなくても構わずに折る。けれどその分手際は良くて、ものの三分ほどで青い折り紙を意図した形に折り上げた。
「でっきあがりぃ」
テッドは折り紙をキキョウの眼前へ突き出した。
左右に細長く、右は三角形が二つ飛び出したようになっていて、左は端の部分だけ白い。左寄りに白い小さな四角と隣へ鈍角三角形がくっついている。
「じゃーん! どうだ?」
「…すごい」
キキョウはまじまじと折り紙を見る。水色のくりっとした目玉が心なしか潤んでいる。牛乳の湯気のせいだけじゃなく、元から潤みやすい体質なのだろう。どういう体質か知らないけれど、少なくとも目を愛らしく彩る効果はかなりある。
「何だか分かるか?」
テッドが問うと、キキョウは唇を半開きにした。
「…えっと、さかな」
「惜しい。魚は魚でもいろんな種類があんだろ。言ってみ」
「…いわし、あ、あじ」
「もーちょっとデカいな」
「…まぐろ」
「お前ほんっと、イワシとアジとマグロが好物だよなぁ。あとサバもか、青魚ばっか」
「…うん」
キキョウはあどけなく微笑む。人によっては馬鹿にされていると感じるかもしれないテッドの発言は、キキョウにとって、自分の好きな食べ物を思い出させる単語の羅列でしかないようだ。今日の晩飯はサバ味噌か、とテッドがほだされても仕方ない。
「ヒントはなー、淡水魚だ。海水に住めない魚な。あと、これは確かに魚だけど実は魚じゃない」
「…?」
「年に一度、一週間後に大活躍だ」
これはオチもちゃんと決まってたんですよ、まぁどんでん返しもなくさらっと終わるだけですが。
でもね、そもそもこのくどい書き口が嫌になって放棄しました。
別にこうやってこいのぼりを引っ張る必要性がまったくないですよねこれ。
むしろこいのぼりはさらっと見せて、その後のよんちゃんの初々しさだとかをねちねち書き込むべき。
2年前の当時もそう思ってこれを途中で止めた記憶がたった今よみがえりました。
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