パラレル坊ルクで小小話。
30代後半くらいのやや熟年な2人を書いてみたくって。
ロクティエとの筆の進み具合に差がありすぎてびっくりしました。
そら坊ルクは本命だもんなーと再確認。
ロクティエは…まだ煮詰まってる…前言ってたとこから1場面何とか進めたところで…。
ふと文庫から目を上げて、アスフェルは二度瞬いた。
「……それ、僕の癖」
「それ?」
「瞬き」
「――無意識だ」
ソファへ腰掛けているアスフェルからガラステーブルを挟んでちょうど部屋の対角線上、カーテンの隙間から夜空を見ていたはずのルックが立ったまま小さく微笑んでいる。いつからだろう。こちらをずっと見ていたのだ。
「僕の癖が移ったの?」
「だといいな」
伝染するほどルックのそばにいる証拠なら、それもいい。文庫本を閉じ、しとしと降る雨を飽きず眺めていたはずのルックを己の膝へ手招く。
「どうして、いつから俺を見ていた?」
「どっちも黙秘」
「可愛げがないな」
まずは声音で戯れる。次にルックはこちらへすすと寄ってくる。もちろんアスフェルの膝には乗らず、隣にぎしりとソファのスプリングを軋ませて。
「……ほんとに?」
アスフェルの肩へこめかみを摺り、ルックが上目遣いで言った。
「ほんとに、かわいくない?」
肩にかかる金茶の猫毛。長くて疎らに生えている睫毛。梅雨の湿気に頬はいつもより潤うものか弾力に富んだ艶がある。ぶかぶかのTシャツから覗く鎖骨と腕一本分余っている袖、黒いTシャツに映える白肌。
「ほら、また瞬き、僕の癖」
「……襲うぞ」
「やっぱり移ったんだ。欠伸も移るって言うけどそれは単に相手へつられるだけじゃない? 僕はあんまり移らないし――うわ」
無邪気に実験してみせたルックの肩をどんと押す。ソファへ横倒しに押さえ付ける。肘掛で頭を打たないように右手をルックの後頭部へすかさず添えるのを忘れない。ルックの顔の横へ右肘を突き、湿気にけぶる翡翠を額がくっ付きそうな近さから見下ろす。
青白い瞼の際へ舌先を這わせれば、ルックは反射的にぱちぱちと二度瞬いた。
「本家の癖を参考までに見せてもらおうかと」
「うそ、今してた? 無意識だ」
「瞬きを意識的に管理する方が難しいだろう」
「でもそれってもったいなくない? 瞬きするたび何かを見逃してることにならない?」
「俺の癖は見逃してくれないらしいけれど」
「うぬぼれないでよね、僕があんたのことばっかり見てるって思ったんでしょ、今」
言い合いながら互いに相手の胴へ腕を絡ませている。アスフェルの指がルックの脇腹を掠め、ルックはくすぐったそうに腰を浮かせる。
「……アスフェル……」
ルックがかすかに囁いた。ここじゃイヤ、と言いたげにそっと目を伏せた。見逃さず的確に汲み取って、アスフェルは軽い身体を大切に抱き上げる。寝室へ移動するために。
雨の音が、さらさら笑うようだった。
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