やっちゃった。
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野宿で体をくっつけあって眠るのは、いつからか暗黙の了解になっている。
特に、まだぎらりと瞼を炙り焼く日差しの昼間から、一息にひゅうと冷え込む夜更けへと、日ごとに変化の度合いを増しゆくこの季節、昼のような軽装でいては途端に体調を崩すだろう。
アスフェルはルックを懐へ抱き込んだ。
うとうとと微睡みながら、ルックはそれでも一通りの抵抗をしてみせる。
「やだって」
「風邪を引くよりましだろう」
「毛布もう一枚増やせばいいじゃない」
「余分な毛布を担ぎながら魔物と戦えって?」
どうせルックも本気で責める気のないのが明らかだ。
あんたなら毛布の一枚や二枚、そう詰る声音がとろんと睡魔に絡められている。
アスフェルは恋人の強がりを掻き散らすように金茶の髪を右手で梳いた。
そこだけ黄金を刷いた川。
夜はことさらどす黒く闇に溶けて見える己が右手を、ルックの明るい髪色がするりと抜ける。
癒しの力は何もルックの風だけではない。
きつい双眸。尖った言葉。
孤高な態度や凛とした寂寥、そのいずれもがひとつひとつルックらしさを光り放って、アスフェルの胸底へ痛いくらいの優しさを穿つのだ。
指の合間へ零れ垂れる髪を、アスフェルはルックの戯言が止むまでずっとあやし続けた。
幾度もその動作を楽しんで、ふいと気づけば腕の中。
静かになったルックはふわり、風に抱かれるごとき儚さをもって、眠りの弓へ弦引かれていた。
安らかな寝息が胸底へ吹いた。
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