携帯でちまちま書いたもの。
どうも携帯で書くと文がちっちゃいというか短絡というか、うーん、全然あきまへんなー。
ほんとはパソコンで推敲したかったんですが、パソコンの動作が重すぎててんで役に立たなかったのでした。
1時代、坊ルク未満です。
アスフェルは、軍師になりたかったのかもしれない。
戦場を見下ろす彼の背中に、ルックはそんな感慨を抱いた。知性と教養と歴史への造詣。アスフェルの適性にひどく沿うと思うのだが。
それはつまり、彼が帝国打倒というようなひとつの思想にしがみつき、押し通すことを、ルックが快く思わないということだった。ルックはアスフェルに期待しているのだ。単純狭窄な精神論で民衆を束ねるお飾りのリーダーなど、彼が柔軟な思考力と冷徹な判断力を具えているなら役不足である。否、具えていてほしい。ルックと対等に話せるくらい。
魔術師の塔から出てきたばかりのルックは自分をひどく過大視している。自分に劣らないと認めているのはごく数名、アスフェルもその中に入っているのは認めたというよりこれから是非を見極めるため。だから気が付けばその背を、目線を、追って見つめてしまうのだ。
アスフェルは馬に跨っていた。バンダナが風に流されていた。立てた襟先が頬を撫で、腰元の衣がすらりと伸ばした背筋の線を際立たせていた。棍の左右に結わえた房飾りは豪奢な金糸、風を孕めど絡まりもせずに馬の横腹を擦っていた。
その房飾りの先端が鼻を掠めるほど近くに寄って、ルックは馬上の天魁星を睨み据える。
「どうして、軍師にならなかったの」
戦況はこちらに有利であった。こうして高みから戦場を見渡せば、自軍のもうすぐ勝利することは明らかだった。
背後で伝令を飛ばすマッシュに必要以上の聞き耳を立てているアスフェルは、そうやってシルバーバーグの采配を学んでいるのだろうか。姿勢は崩さず、耳も背後に傾けたまま、アスフェルは鋭利な視線だけをルックへついと寄越してくる。さも愚問だというように。
「軍師ならすでに足りている」
「じゃなくて最初」
わざわざマッシュを求めずとも、己が軍師を務めてみせればよかったのでは。ルックは目だけでそう問うた。
過たず汲み、アスフェルがちらりと口の端を上げる。
「俺は軍師に向かないよ」
「でも」
「俺には致命的な欠陥がある」
欠陥?
アスフェルはマッシュを振り返った。マッシュは遅れて視線に気付き、これみよがしに溜息をついた。ルック、とマッシュが自分を呼ぶ。その目に苦笑の色がある。
「我らがリーダーは辛抱が利かないようですねぇ……」
「すまないな、マッシュ」
「ということですから、ルック。リーダーの護衛を頼みましたよ」
きょとんとルックは瞬きをした。ルックにしては珍しく、年相応の表情だ。
アスフェルがくつくつ喉咽で笑う。君にはわからないだろうな、と暗に揶喩されているようである。
「軍師が立つのは戦場の背だ。けれど俺は」
アスフェルが不自然に間をあける。
ルックはぞくりと鳥肌を立てた。小指と薬指に力をこめて棍を握り直すアスフェルの、視線に射られたからだった。
「――最前に立たねば納得できない」
あんたは何て、哀しい瞳をしているの。
アスフェルは正統すぎるのだった。意志決定に感情を優先させながら、その感情が曇らない。麻痺していない。感情、言い換えれば道徳心を、最も邪魔になる場において正しく使うつもりでいるのだ。軍師としては致命的である。
結局アスフェルも、下等な雑念に振り回される程度の男か。
無意識の期待が打ち砕かれて――しかしルックは、この時確かに、胸をたぎらせたのだった。理屈を踏み越えたところに仰臥する正答をアスフェルは掴むことができる。天性の審美眼だ。それはいかにも人間くさい、ルックにはきっと持てない力。
だから彼こそ、軍を統べる主にふさわしい。
ルックは荒ぶる風を呼んだ。同時に鋭く鐙を蹴って前方に馬を駆るアスフェルの、進路を均すためである。風が巻き起こした土煙の中、アスフェルの馬が地を蹴る砂埃が鮮やかに立つ。
転移の呪文を紡ぐ唇がかすかな笑みを宿しているのに、ルックは気付いていなかった。
「哀しい」を使いたかっただけでした。
某ドラマでアウトロー鑑識くんの台詞にめちゃくちゃ萌えたので。
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