本文よりもタイトルの方に時間を取られたっていうもうどうしようもないパラレルです。
…パラレルです…。
ちなみに、この大金鶏菊という花について。
本文を読まれた後の方がよいかもしれないです。
大金鶏菊という名前を私はしらなくて、この文を書き上げた直後にめちゃめちゃ検索かけまくって探しました(笑)
土手とかによくぶわっと咲いてる小型向日葵みたいな花です。
とても強靭だそうで、他をおしのけて一面黄色に埋め尽くす感じで群落をなします。
遠くから見るとすごくきれい。
…なんですが、実は特定外来生物に指定されています。
飼育、栽培、保管及び運搬すること、野外へ放つ、植える及びまくことなどが禁止らしいですよ、詳しくは環境省HPでどうぞ。(笑)
きれいなんですけどね、ほんとに大群落としか言えない咲きっぷりがだめらしいですね。
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ルックは工事現場に出くわすと、いつも苦々しげな溜息を吐く。
今もまた買い物ついでにたまたま通った回り道、大規模ショッピングセンターを建設するとかで茶色く均された広大な地場は、まだブルドーザーやクレーン車の洗礼を受けていない一握りほどの緑地によって、かつてそこが野花の咲き乱れる空き地か何かであったと忍ばれる。
空き地といっても合間には品よく敷かれた道があり街路樹が植わっていたらしい。
根元から酷く切り落とされうち捨てられている欅や桜の残骸に、アスフェルもわずか眼差しを曇らせた。
ルックは砂埃の舞い上がる中、黄色と黒で塗り分けられた金網越しに、侵略される大地を見つめる。
「……こうやって」
ぽつり、ルックが気持ちを漏らした。
「利便性や快楽、金儲けのためばかりに自然は破壊され征服されて。人間だけが増殖してゆく。……いつか」
ルックはひたと言葉を切った。
砂塵の黴臭さが鼻につく。
植物や生きものを狩り尽くしたからだ。
ぱさぱさに乾いていのちを失った大地はかくも凄惨に死に際の腐臭を放つのか。
アスフェルは首を振るってルックへ先を促した。
「いつか?」
「……いつか……この地も草木も滅びる時が来るんだろうけど……。それは永遠なんてどこにもないって事実なだけで、こうやって人間に荒々しく踏みにじられる理不尽な滅び方を許容しなきゃいけないわけじゃない」
もちろん、ルックが言うのは己を棚に上げた糾弾である。
言えた義理ではないことくらいルック自身も承知している。
「罪悪感を感じなくなったら、おしまいなんだろうな」
アスフェルはそれでも言わずにおれなかったのだろうルックの耳元へ言い添えた。
縦横無尽に削り取られた草むらの、かろうじて今は無事である一隅に、野花がわっと咲いている。
濃い黄色、山吹色よりもっと深く太陽の光を吸った密度の高い色合いで咲く花の名を、アスフェルは未だに思い出せない。
よく見かける雑草だ。
……いや、この空き地へどっさり咲く以外はあまり見かけぬ花やも知れぬ。
余計な葉をつけずにすらと一筋伸びる細い茎、その先に重たく重なる黄色の花弁をただ一輪きり開かせて、ここでしか会えない名も知らぬ花はこぞって太陽の方を向いていた。
「あといくらもしないで破壊されるのに。……なのに、なんて、」
ルックは続きを飲み込んだ。
はかないだとかうつくしいとか、あまりにも陳腐な表現しか思いつかなかったのだろう。
これはそんな使い古された言葉で一息にまとめられるほど単純な情景でない。
あと数日でぐしゃぐしゃに、文字通りぐちゃっと潰される野花たち。
それは限りなく確定的な未来であって、彼らには避けることなど叶わない。
しかし花はただきれいに咲き誇るのだ。
諦めきって俯かず、自棄にその黄を濁らせもしない。
ひたすら力強く、凛々しく、そして繊細に。
花は命の消える瞬間まで一途に堂々と咲いて在るのだ。
そこには確かに意義がある。
存在のうつくしさという、ほかの何物にも代えがたい尊き価値である。
そして先ほどから足元を縫い固められたようにこの場を動かないルックは、ここから無常の常を見出だし、だからこそできる限りの鮮やかさで記憶に焼きつけておこうとしているに違いなかった。
視線は逸らすことなく被征服者たちへ。
翡翠の光を強く射る。
「……ルック、今日はそうめんにしよう。先週貰った焼酎を開けて、河豚の一夜干しか鯛でも塩焼きにして。店が閉まるまでに行かないと」
アスフェルはルックの顔を覗き込んだ。
にこり、笑って肩を抱く。
ルックはぱちぱちと瞬きながらアスフェルを見上げ、ゆるく瞼を下ろしきった。
「胡瓜」
「もちろん」
次に目を開けたルックはもう憂いなくアスフェルを見てくれていて、アスフェルは知らず満面の笑みを浮かべてしまう。
ルックはさっと歩き始めた。
もはや顧みることはしない。
しかしアスフェルは三歩も行かずくるり振り返って、束の間とはいえルックの中心を占めた野花へ視線を遣った。
つくづくアスフェルは狭量な男である。
内省しつつ、されど変える気もさらさらないまま、アスフェルもまた野花を記憶に留めたのであった。
シーナは目覚めて頭を捻った。
久しぶりに夢見たからだ。
現実との境がしばらく見えず、シーナは焦ってカレンダーを見た。
花水木の絵が優雅に描かれた和紙はその下方に太陽暦四五九年五月の数字を一から三十一まで小さく並べて載せている。
再び遊学と称してさまざまな土地を渡り歩くこと数ヶ月、シーナは思ったよりも人恋しがっているらしい。
でなければ何であいつらの夢なぞ見ねばならぬのか。
シーナが彼らの奇妙な夢を見る時はたいてい、奴らをよく知る人物が近くにいたものだ。
だから今になって例の夢の続きを見るということは、少なからずシーナが昔のことや彼らのことを語りたい気分になっているということになる。
「……格好悪ぃなー、俺」
シーナはわざと思考を声に出した。
深夜の宿屋、寝静まった家屋特有の沈んだ気配が漂って、シーナは余計にもの悲しくなる。
この時シーナはデュナン方面へ足を伸ばしており、一年後にはかの地にて戦に関わる宿星であったが、当然、そんな未来を知るわけがない。
だからもう一度、今度こそ変な夢を見ずに気持ちよく眠れるようにと、窓辺へ向かって両手を組んだ。
「あいつらが……どこかの空の下で、再び、出会っていますように、っと。俺ってマジ優しすぎ?」
祈った途端、とろりと睡魔がやって来る。
やはりあの性悪元軍主の呪いだったか。
シーナは布団を肩まで被って、五月にしては暖かい夜だったのだけれど、構わず布団に潜り込んで寝た。
布団は野花の香りがしていた。
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