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夕 凪 大 地

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「ナマモノ注意 1」

やっばい!
やっばい楽しい!

前クールの木9ドラマ「陽はまた昇る」のその後を捏造しちゃいました。
某さまがものっすごい萌えの爆弾を投下してくれたので!

いやもうこれやっばいわ!
しみったれ教官楽しすぎる!

遠野には絶対幸せになってほしくないドSな方、ヒナでっす☆





 あれから六年が経っていた。
 遠野の妻は六年前に死亡した。その八年前に遠野がある殺人犯を逮捕したことから始まった悲劇は、遠野の妻を死に至らしめて終息した。
 今日はその命日である。
 遠野の妻は魅力的という言葉がしっくり当てはまる女性だった。いじらしい気質やいとけない表情が、それまで出会ったどの女性よりも遠野には魅力的に映った。しかし遠野と連れ添ってから彼女は暗い顔ばかり見せるようになる。遠野は彼女を愛していたが、彼女との生活に魅力を感じられなくなった。もしかしたら他人よりも疎遠だったかもしれない、実に会話のない夫婦であった。
 そんな妻を再び魅力的だと思えたのは、棺桶に入った彼女の死に顔を見た時だ。そして今日、ぬくぬくと初秋の陽を浴びる墓石を前にして。
 妻はもう裏切らない。裏切れない。何と……魅力的だろう。
 遠野はブラシで日がな一日墓を擦った。中腰の体勢で念入りに擦った。何時間もそうしていると、日当たりのよい霊園は背中が汗ばむほどだった。喪服の裾では汗を拭えず、ハンカチを忘れて辟易した。
 だがそれも、陽が落ちるだけでがらんどうの寒さに変わる。
「肉まんを、二つ」
 遠野は今日もまたコンビニに入る。いつも陳列棚の商品はろくに見ない。まっすぐレジへ向かって保温器の唐揚げやコロッケを買う。冬になればおでん、気が向けばあんまん。男やもめの晩餐など所詮その程度だ。
 冷えた惣菜や弁当にしないのは無意識に温もりを探し求めているせいだろう。そう内心を分析している。
 今夜の店員は新人アルバイトのようだった。動作が遅く、商品を保温器から取りだして袋へ詰めるまで五分以上かけている。運が悪いと思ったところで後の祭りだ。さらに店員は切れたレシート用紙を慣れぬ手つきで交換し始めた。
 背後へレジ待ちの客が並ぶ気配を感じれば、いくら遠野に非がなかろうと無意味に咳いて場を誤魔化すしかない。
「遠野、教官?」
 と、後ろから控えめに声が掛けられる。
 瞬間飛び上るほど驚いたが、どうにか態度へ出さずに堪えた。少し開いてしまった口を閉じ、何食わぬ顔で、後ろに並んでいる客を振り返った。
 しかし今度こそ、驚きを隠せず目を瞠る。
「――湯原」
「はい。巡査部長になりました。お久しぶりです」
 出くわしたのは、、当時の訓練生だった。
 湯原は訓練生当時のジャージ姿で、さすがに胸のゼッケンは外されていた。記憶より少し精悍になり、芯の通った顔をしている。六年前より落ち着いて見えるのは職務を全うしている自信からくるものだろう。
 遠野に会えた喜びなのか、湯原の口許はほんのわずかに綻んでいる。
「来月から本庁に勤務します。刑事部です」
「一課か」
「いいえ。二課です」
「そうか」
 それ以上尋ねることもない。――いや、聞きたいことは山のようにあるが、自制がそれを許さない。
 湯原は遠野が警察学校に異動して初めて教えた生徒であった。生真面目で辛辣で、他人との馴れ合いを嫌うところが遠野にどことなく似ていた。
 けれど湯原は遠野と違い、ほどなく教場の皆と打ち解けることができたのだ。湯原はそっけない態度の裏に思いやりを溢れさせる、愛くるしいと言っても差し支えない実直な青年に成長した。遠野にとって忘れられない第一二九三期遠野教場は、湯原のような堅物をも丸めこむ不思議な引力を持っていた。
 そう、遠野もまた、あの数ヶ月で丸めこまれたのだ。
 遠野は他人に本当の意味で腹を割ることを覚えた。全力で否定し、全力で反発され、いつしか全身、彼らに受け入れられていた。心に飛び込まれることを覚えた。
(……彼「ら」、ではないか)
 思い出す。単純で底抜けに明るくて、馬鹿の一つ覚えのように誠実だった彼のことを。湯原の強張りを荒々しく解し、遠野の冷えた心の閂をも解いてしまった彼の顔を。
 宮田英二。
 遠野は教官で良かったと思う。教官として彼に出会った幸いを思う。
 もし同僚なら、あるいは異性なら。遠野は一歩を踏み越えずにはいられなかった。
(――過ぎたことだ)
 遠野は力なく首を振る。
「……教官?」
 それまでは途絶えた会話も気になっていなかったらしい湯原が、さすがに怪訝な顔をした。具合でも、と続けられる気遣いに居たたまれなくなる。どう誤魔化そうかと周囲を見回せば、新人店員はまだ手間取っており、湯原の後ろに並んでいた客は商品を戻して店を出て行くところであった。
 遠野は湯原と目を見合わせて同時に眉を顰めてしまった。
 それで湯原は都合よく勘違いしたらしい。遠野とともに運のなさを嘆く口調になって、幾分気安い空気が流れる。彼本来の性質である朴訥な表情が見え隠れする。
「教官はこのコンビニには良く来られるんですか」
「いや。初めてだ」
「そうですか。自分は以前巡回パトロールで立ち寄っていた店なので、店長がいなくてほっとしました。いたら気まずかったから……」
「気まずい?」
「自炊もできないのかと馬鹿にされそうで」
 湯原は買い物カゴに弁当と清涼飲料水とスナック菓子を詰め込んでいた。弁当が二つも入っているあたり、そう大食らいではなかった湯原にそぐわない。何だか微笑ましい気持ちが込み上げて、思わず息を漏らしてしまう。
 その微笑にもならぬほど小さな吐息を、湯原は的確にくみ取っていた。
「あ、これですか。えい……宮田の分」
「宮田」
 ――過剰に反応しなかったろうか。
 その名が今このタイミングで出てくるとは思わなかった。遠野は呆然と宮田の名を呟いていた。たった今大事に思い返していた甘酸っぱく懐かしい感傷を、無遠慮に読み取られた錯覚に陥った。
 湯原は普段、えいじ、と呼んでいるのだろう。慌てて言い繕った湯原はさらに言い募る。
「はい、宮田です、宮田英二、遠野教場の問題児です。今日から三連休取ってうちに来るんで、あ、いえ、高校の同窓会に参加するんですけど、実家にはもう部屋がないから泊めろって」
「よく有給が取れたな」
「都市部と違って暇なんです。でものどかでいいところですよ。犯罪どころか道案内に交番を頼る人もいないような、こっちじゃ毎晩酔っ払いの喧嘩を仲裁してるっていうのに」
「酔っ払いどころか、本庁に行けば死体ばかり見ることになるぞ」
「二課ですから大丈夫です。宮田は一課を希望する割に猫の死骸も駄目なんですが、刑事ドラマで刑事が吐くシーンを見て以来、妙に自信を持ってしまって」
 湯原の話はどこか聞き取りづらかった。視点が混同しているのだ。宮田の話が、伝聞ではなく直接体験になっている。
 湯原は気付いていないのだろうか。会話の端々から宮田との深い関係を暴露していることも、遠野がそれを知ってどんな顔をしているのかも。
 だが遠野も上の空だった。湯原のたどたどしい雑談が意識の上っ面を通り過ぎるたび、何とも言えない黒々とした感触を味わった。無理やり名前を付けるなら、羨み、なのだろう。遠野にそんな資格はない。頭では理解できているのに。
 互いに会計を終え別れるまで、湯原は何度も尻ポケットをまさぐっていた。携帯電話を触っていたのだと、連絡先を交換したかったのだろうと、コンビニの照明がちらとも差さない暗がりに出るまで遠野は気付いてやれなかった。仮に気付いてもきっと交換しなかったろうが。
(会えば、脆くなる)
 弱くなる。そうやってかつて妻を手放してしまったというのに、遠野は何もそこから学べていないのだった。



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