今1をざーっと読み返してみたら、あれですね、細切れですね。
流れが悪いにもほどがありますね。
細切れで執筆すると細切れになっちゃうなぁ。
で、2です。
1の続きです。
3部構成のつもりですが、3がね…私この登場人物たちにとことん幸せになってほしくないみたいでね…。
幸せな宮湯を書きたかったのにたった3行も進まない。
今の私はまやみきがうっかり杉遠ちゅうシーンを見ちゃうとか、白→遠でめっちゃ迫ってるとこにうっかり通りがかってしまったとか、そういうのが書きたいです。
みんな不幸になるようなやつね! ←最低
遠野は妻を亡くしてから二度引っ越した。一度目は家賃の問題で、狭く古ぼけた、とにかく安い木造アパートへ移り住んだ。当時辞職するつもりだった遠野はどこにも再就職するつもりがなく、収入のあてがなかったのだ。
二度目はつい半年前で、理由は二つある。一つには、警察学校の安定した月給ならもっと良い条件の物件を選べると気付いたこと。二つ目は、……姿をくらましたかったこと。
だがくらませたのはたった半年に過ぎなかった。と、遠野は窓を見上げて知った。
遠野の現在の家は、古くもないが新しくもない、最寄り駅から徒歩十五分以上かかる賃貸マンションの二階である。2DKは独り身にとって広すぎるのだが、仏壇を置くためだけの一室が欲しかったのだ。その一室はマンションの入口側に面していて、今は、その部屋のカーテンから明かりが漏れているのが分かる。
「おい杉崎、鍵はどうやって開けた」
遠野は家に入るなり大声で怒鳴った。
「何だ、もう帰って来たのか」
「何だじゃない。大家に開けさせたのか? それとも合鍵を作ったのか? いつ、どこでだ」
「突っかかるなよ。鍵は自力で開けさせてもらった。これでな」
安全ピンだ。
杉崎は勝手に仏壇へ線香を上げていた。リビングのローテーブルに缶ビール三本とつまみのさきいかが乗っていた。それから牛丼屋の袋。
「ピッキングは犯罪だぞ」
「鍵と間違えて差し込んじまったんだ。この通り酔ってるんでな」
「――今すぐ出て行け」
「遠野、どうせお前のことだから毎晩コンビニ食だろう。今日は何だ、コロッケか。侘しいな、牛丼も食え」
「出て行け!」
強いて軽口を叩こうとする杉崎を、遠野は容赦なく睨みつけた。
遠野が杉崎から逃げたのはちょうど半年前、杉崎が捜査一課に復帰すると聞いた翌日だ。それまで杉崎は何だかんだと理由をつけては遠野の家へ入り浸っていた。酒を飲み、酔った勢いでセックスし、素面に戻れば何事もなかったかのようによそよそしくなる不純な関係を五年以上も続けていた。
「なぁ遠野。――探すのに半年かかった」
「嘘だな。内堀校長から聞き出していたはずだ」
「……けれど俺には、この家へ気安く乗り込む覚悟も、警察学校でお前を待ち伏せする勇気も……なかったんだよ」
杉崎のふいに見せた表情へ、遠野は背筋を凍らせる。
杉崎が単に性欲のはけ口を求めていたのでないことは、肌を合わせる遠野が一番よく知っていた。しかし遠野は、杉崎に対して性欲のはけ口しか求めていなかったのだ。鬱々と蓄積する遣る瀬なさを全部性欲に換えて、取り替えたふりをして、杉崎の与える優しい愛撫に溺れていた。
「今日、命日だろ」
「……お前には関係ない」
「ひどい顔だな。俺が来なかったら、お前、ひとりでどうしてた」
杉崎がソファを立ち上がる。怯えた犬を馴らすように、少しずつ遠野へ歩を進める。
逃げたい。杉崎に癒されたがる己から逃げたい。杉崎の、のらりくらりと煙に巻いたような方法であれ確かに向けられている誠意を、盗み取る情けない己から逃げ出したい。
コンビニの袋が手から落ちた。唐揚げがフローリングに転がった。とうに冷めて硬くなってゆく鶏肉の、油がまだ白く固まらず床につやつやと光跡を描き出すのを、遠野は目眩に揺れる視界で追いかける。
「俺を利用しろよ。遠野」
鼻をうずめた杉崎の胸は、整髪料に徹夜明けの体臭が入り混じって苦かった。
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