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夕 凪 大 地

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「元死神と猫、と俺」

にゃんにゃんにゃんの日滑り込みセーフ!


推敲してないどころか自分で読み返してもいない。
とりあえず2月22日に投稿。

死神ルックその他何だっけハだっけニだっけ、何かその辺に改題する気がしないでもない。





 ルックが猫を撫でている。
 猫にセラと名前を付けたのは俺に拾われて三時間後、つまり今から遡ること三十分ほど前のルックだ。
 ――セラ、セラ。あんたは今からセラだよ。セラ。
 ルックはどこか悲痛な顔で猫に言い聞かせていた。
「ルック、あの」
「……何か用」
「もう寝る時間じゃないか、と」
「……どこで」
「ここに、その布団を敷いて、……ああ、一組しかないから、俺は、ほら、あの、ああ仕事、そう夜に仕事へ行くから、仕事だから、ルックは先に寝て? 俺はこの隅にでも座っているから、す、すぐ出ていくから、気にしないで」
「……」
 俺は、らしくなく緊張していた。そしてルックも、緊張している。俺の緊張は追い求めていた存在が眼前にいる奇跡をまだ受け止めきれていないせいだけれど、ルックは初対面の俺、他人の俺に、警戒が解けないだけらしい。
 けれど柔軟にも俺を受け入れてはいる。少なくとも俺に追い出されたくないとは思ってくれている。多分。
 だから互いに慎重になるあまり、うまく会話が連ならないのだ。
「寝ない? ルック」
「……」
 そしてルックは、猫を撫でる。痩せぎすの子供が、同じく痩せぎすの猫を、縋るようにひたすら撫でている。
 その撫でる手つきを見つめるだけで心が沸き立つこの衝動を、俺は何と名付けよう。
(――愛おしい)
 痩せた身体も、不揃いに切られたぱさぱさの髪も、血色の悪い頬、落ちくぼんだ眼窩にも。すべてにひとつずつ、いやいくらでも、敬虔なキスを捧げたい。猫を撫でるひび割れた指先が柔らかく赤らむように祈りを込めて。傷だらけの腕に、足に、早く早く治りますようにと。袖も裾も幾重にも折ってどうにか着ている俺のジャージごと、腰を抱きかかえ、胸を温め、緊張に早鐘を打っているのだろうルックの小さな心臓が、少しでも穏やかになりますように。
 俺の全身全霊を以て、ルック、君を、愛したい。
 みっともなく涙がこみ上げそうだ。見つめるだけで、愛しい気持ちが溢れ出る。
 奥歯を噛んで俺はルックに背を向けた。
「……ふ、ふとん……」
 途端、小さく声が掛かる。
「ルック?」
「べつに、端と端だったら、ひとつしかないんだし、僕がいきなり、上がりこんだわけだし、……あんたがいやじゃないんだったら、端と端で、その……」
「ルック! 嫌どころか!」
「そ、そう? ――え、あんた、なに、何なの、どうして、何で……泣くのさ……」
「ごめん。いい大人が」
「それはいいけど……」
 当惑するルックは優しさに満ちていて余計苦しい。愛おしすぎて、胸がきつく締め付けられる。
 だが俺はルックの膝で丸まる猫へ嫉妬するほど醜い邪念に満ちていた。どうすればルックが明日も明後日も俺の傍にいてくれるか、必死で頭を巡らせるほど。将を射んと欲すればまず馬を射よ、そんな諺に従うほど。
「セラ。俺も撫でていいかい」
 きっと涙声のせいに違いない。猫は俺を見もせずに、尻尾をぴしりと畳に叩きつけて俺を威嚇したのみだった。



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