坊っちゃんに歌を歌わせたかっただけのお話。
3後ののんびりした坊ルクです。
ちなみに曲名はタイトル参照ということで!
…「あの花」、今やってるじゃないですか。
前やってたのと何が違うのかなって気になって毎週見てて毎週泣いてて、もう、あのエンディングのお花がぶわーっと色づくところで絶対に泣いてしまう。
そんで何が違ったかというと1話から4話まで副音声でオーディオコメンタリーやってたらしい!
知らんかった。orz
アスフェルがのびやかに歌っている。
高めのテノールはつややかだ。少しキーを下げ、テンポを遅めに、ゆったりと歌っている。
この辺りの村人は曲名を知らないだろう。グレッグミンスターでは定番の歌謡曲だ。世事に疎かったルックでも知っている、友と別れる曲である。
(歌手にでもなればよかったのに)
と、ルックは偏屈な感想でもって彼の歌声を褒めちぎる。
アスフェルの歌はかなり上手かった。声量が非常に豊かなのだ。武道を極めているから腹式呼吸にも通じているし、何より、衆人の前で声を張ることに慣れている。人々のざわめきや騒音の中で、颯爽と響き渡る声である。
また、アスフェルは、声楽の教科書に載っているような技巧をまったく使わない。ややもすると感情表現に乏しいと評されるストレートな歌い方である。
けれど、だからこそ一層、アスフェルの声音はのびのびと広がって聞こえるのだ。
「皆、ありがとう」
アスフェルが歌い終えた。聴きほれる村人たち一人ひとりと握手する。村人たちにただならぬ愛着があるのだろう、数週間滞在した村である。
村を去るにあたり、何かお礼をと考えたアスフェルは歌を選んだ。辺境にあり、極端に娯楽の少ない村だから、歌くらいしか即興で披露できるものがなかったのだ。
それにしてもアスフェルは歌が上手い。何をやらせても人並み以上にこなす男だ。
(本人は嫌がりそうだけど。努力せずできるわけじゃないんだよ、とか言って)
今度は村人が合唱を始めた。
昔ながらの、漁に従事する歌である。ルックも歌詞は文献で呼んだことがあるけれど、旋律を聞くのは初めてだ。誰にでも簡単に覚えられる単調な音階である。
アスフェルもすぐに合唱へ混ざった。
烏合の衆だった合唱が、アスフェルの加入で協調性を帯びてゆく。一気にまとまりのある歌となる。
朝焼けの空へ、歌が気持ち良く吸い込まれるようだ。
ルックはアスフェルへ小さく手を振った。
がらにもないことをしたと、直後にアスフェルへ背を向ける。
旅立つ背中を、歌が押す。
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