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夕 凪 大 地

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「君に贈る歌」

ルックの日、おめでとうございまーす!!!

ツイッターに #同題二次TB というタグがありまして、今日6月9日のお題が「君に贈る歌」でした。
もうこれルックのことだろ!!!
タイバニじゃない!!!
これはルックたんへのお題!!!

そんなわけで妄想が暴走し、あれよあれよという間に「3ラスボス戦直前に坊っちゃんが駆け付けていたら」を捏造していました。
シリーズの方とは関係ありません。
あの、ちょっとばかり流血してますので苦手な方はご注意ください。











 風がルックを取り巻いていた。風は分厚い障壁となり、内部にはアスフェルの姿も、声すらも届かない。
「真なる風の紋章よ……」
 ルックは唱える。右手が焼き鏝のように熱くなる。髪があぶられ、焦げ臭い。紋章は球形の殻を破り、ルックの右手から溢れ出す。
 ここで死ぬのが運命ならば、とルックは頼りなく考えた。
 ここで死ぬのが運命ならば、アスフェル、あんたを立ち会わせたことだけが僕の悔いだ。あんたが悲しんでくれるって、僕は、ちゃんと知っていたのに。
「真なる風の紋章よ。大気と精霊の力を集め……」
「ルック!」
 大音声が障壁を裂いた。ルックは弾かれるように顔を上げる。棍を風に突き立てて、アスフェルが風圧に抗っている。バンダナは風に吹き飛ばされてしまい、汗まみれの黒髪が千々に乱されている。
「聞くんだ、ルック!」
 アスフェルは余裕をかなぐり捨てていた。ルックは急に恐ろしくなって、思わず手のひらで耳を塞いだ。右耳が熱い。右手は真っ赤に膨張している。
「ルック、君は何のために死ぬ気だ? この地を滅ぼすのは構わない、どうして君まで消えなきゃならない? 出生が何だ、紋章がどうした! 君はただ予期せず死ぬのが怖いんだろう、だから先に死んで安心したいだけだ!」
「違う!」
 アスフェルの声は耳を塞いでも防ぎきれない。ルックは首を振る。うずくまる。溢れ出した紋章の力が右耳をじわじわ焼いている。
「違う! 僕は世界を、まも」
「俺はルックを守りたいんだ!」
 アスフェルが叫んだ。棍で風を薙ぎ払った。旋風は霧散し、右手の皮膚が衝撃に弾ける。ルックは呆然と、皮膚の下で蠢く紋章を見つめる。紋章と、まるで人間のように赤く流れる血潮とを。
 ルックは右手を地面へ叩き付けた。これが砕けたら。ルックの魂ごと砕けてしまえば楽だった。楽になれたんだ。
「ルック」
 アスフェルの声が真上からする。ルックの正面へ立ちはだかって、アスフェルはルックに語りかける。
「俺は思うよ。ルックと同じように、百万の命を犠牲にしても守るべきものはあるだろうって。けれどそれはこの世界じゃない。世界は俺たちが何をしようと、存続に意義を見出しはしない。世界には意志なんかないんだ。意志とはこの世界に住まう俺たち、生きとし生ける者たちにこそある」
 アスフェルは必死でルックを説得しようとしていた。内容には反論すべき点がいくらでもあり、ルックは、いつ言い返そうかと考えて聞いた。
 けれど、言い返す言葉が見つからない。内容は端からどうでもよかったのだ。ルックは深く俯いて思う。地面にいくつか水滴が落ちる。
 誰かがルックを全力で止めようとしてくれている。説得とは、ただそれだけで十分だ。
 ルックはふらりと立ち上がった。アスフェルが即座に右腕を掴み、傷の具合を確かめた。そうひどくはなかったのだろう、安堵に息を吐いている。気の抜けた表情だ。
「よかった」
 アスフェルが小さく呟いた。途端、ルックの眼前に景色が拓けた。今まで見ようとしていなかった、グラスランドの兵士たちだ。皆、ルックを殺してでも止めようとしていた。かつての仲間たちの姿も見える。
 彼らの声がようやく耳へ届いて、ルックは、ゆっくり頷いた。



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