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夕 凪 大 地

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「気になるしぐさ」

ツイッターの「#幻水総選挙」で、坊っちゃんが1位!
ルック2位!!

ワンツー独占でめでたいことですね!!

ってことでまったり坊ルク(*^_^*)









 アスフェルが首を傾ける。
(キスされる)
 ルックはとまどい、硬直する。
 決して彼を嫌うわけではない。むしろその逆だ。素直に認めるのは癪でならないが、ルックはアスフェルを非常に好ましく思っている。そう、たとえば不意のキスをあえて避けないくらいにだ。
 だからこそルックは、とまどい、そして硬直するしかなくなっている。
(……違った。キスじゃなかった)
 アスフェルが首を傾けるとき、必ずルックにキスをするかというと必ずしもそういうわけではない。「何?」と聞き返すかわりに小首を傾げてみせることや、あるいは、「どうする?」や「行く?」と首を傾げてルックにお伺いを立てることもある。もちろん本当にキスをすることも多々あって、キスでないときとキスされるときの割合は、ルックの体感で言うならちょうど半々くらいではなかろうか。キスが少し多めかもしれない。
(紛らわしいんだ)
 飄々としているアスフェルの横顔へ、ルックは舌打ちを投げつける。とはいえ、まかりまちがって本人の耳へ入らないよう、あくまでも心の中でだけだ。
 アスフェルが首を傾けるときに必ずキスをしてくるわけではないけれど、キスをするときアスフェルは必ず首を傾ける。つまり、キスの記憶は必ずその直前に首を傾けたアスフェルの姿がともなっている。これを分離するのは実質、不可能だ。となればルックはアスフェルが首を傾けるたび、キスを思い出さざるを得ない。心臓がぴょんと跳ね上がり、キスなのかそうでないのか、もしキスだったらどんな顔で迎え入れればいいのか、とまどった結果ただ硬直するのみだ。
(そもそも何で首を)
 ルックは首を左右へ倒した。上下にも倒し、右回りと左回りにそれぞれ一周させてもみた。
 なぜアスフェルがキスの前に首を傾けるか。おそらく、キスをするとき、鼻がぶつからないようにするためだ。だって口より鼻の方が手前に飛び出しているのだから、お互い真正面から顔を近付ければ、口より先に鼻の頭が接触するに決まっている。
(アスフェルが僕とぶつからないようにしてくれてるのは分かってる。けど)
 何もキスに限ったことではない。アスフェルはいつだってルックを尊重し、ルックの意志を優先してくれる。神経質で潔癖気味のルックがアスフェルと大した喧嘩もせずやっていけるのは、完全にアスフェルの功績だろう。彼がルックのため如何に心砕いてくれているかは、今さら確認するまでもない。
 そう思えば、アスフェルが首を傾ける些細なしぐさも、彼のきめ細やかな配慮であるように感じられる。いちいちキスかそうでないかを知りたがるのはルックの身勝手だ。
(けど、僕ばっかりがいいように振り回されてる気分になるんだ)
 アスフェルが少し首を傾けただけで、すわキスかと身構えてしまうのが恥ずかしい。アスフェルにとっては「何?」と聞き返すだけのしぐさを、普段からキスを待ち焦がれるあまり早とちりしているようじゃないか。別に、待ち焦がれてなんかないけど。拒まないだけで積極性はまったくないけど。いや、まったくというのは言いすぎた。前述の通り好意はなきにしもあらずなのだから、少しもないというほどではない。少しはある。少しはルック自身がアスフェルのキスを望んでいて、けれど自分からねだるほどほしがってもいなくて、アスフェルが首を傾けた瞬間、火花のように「キスだ!」と思いの丈が弾ける。キスだ、キスされる! しかし自分から「待ってました!」とは口が裂けても絶対言えない。実際にそこまで待ち焦がれていたわけでもない。だから硬直し、不意のことに呆然としている体でキスが降るのを待つ。まるで、無邪気に駄菓子をほしがる幼子のように。
(アスフェルはどこまで分かってるんだろう)
 聡いアスフェルのことだから、ルックの煩悶はとうにお見通しかもしれない。その上で、本当にキスしてみたり、「何?」と聞き返してみたりして、ルックの反応を楽しんでいるのかもしれない。そこまで陰険なやつだとは思いたくないけれど、事実陰険な側面も持ち合わせている彼だ。陰険というより好奇心が強い。こうしたらどうなるか、ああしたらどうなるかと、自分の手のひらの上で物事を動かすことに多少の喜びを覚える性格だ。穏便に表現して、仕切り屋、とでもいおうか。
 それならルックにも考えがある。
 ルックはアスフェルをひたすら待った。アスフェルがどういう意図でか首を傾けるまで、じっと牙を潜めて待った。
 そしてついに、一泡吹かせるときが来る。
 場所は宿屋の一室で、月のない静かな夜だった。それまで歩き通しの旅だったから双方くたくたに疲れていた。アスフェルはおそらく「どうする? もう寝ようか?」と尋ねるつもりだったのだろう。ルックをまじまじと見つめながら首を傾ける。もしかしたらキスかもしれないけれど、どちらにせよいつものルックならとまどって硬直しているところだ。
 そこでルックは、自分も首を傾けた。
 アスフェルが首を左に傾けていて、ルックも左、アスフェルから見れば右側に首を傾けた。これだと互いの鼻が邪魔にならない。どころか、唇を合わせやすい。
 すると水が川上から川下へ流れるように、自然な引力でアスフェルが顔を寄せてきた。ルックもアスフェルの胸へ倒れ込むようにし、そればかりか、キスに備えて目を閉じていた。
 そして、唇同士がぴったりくっ付くキスをする。いつもはもっとふわふわした軽いキスなのに、今は最初から唾液の存在を感じるキスだ。いつもは唇以外どこもひっ付いていないのに、今は全身をぎゅっと抱きしめられている。
(ちがう、こんなつもりじゃ)
 ルックは必死に言い訳をしたが、内心に言い訳をこしらえる端からアスフェルのキスへ攫われてゆく。ちがう、ただアスフェルに仕返しをしたかっただけなんだ。アスフェルの真似をして、アスフェルがとまどえばいいと思った。けどこれじゃ僕からキスをせがんだみたいだ。下手したら、キスよりもっと先のことまでせがんだように見えるかもしれない。
 ルックはアスフェルを突き放そうとする。しかし、できるはずがない。アスフェルのキスはいつもより長く、とろりとしていて、ルックを酔わせるのに充分だ。ルックは無意識にアスフェルの襟元をつかんでいる。体重はほとんどアスフェルに掛けていて、もう自力では逃れられない。
 ところがルックは、どこか安心している自分に気付いていた。
(こうすればよかったんだ)
 もう、とまどわなくてすむ。
 だからルックはわざとらしく、アスフェルの背中へ服越しに爪を立ててみせたのであった。
 








坊ルクは永遠にちゅっちゅしていてほしい(*^_^*)

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