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夕 凪 大 地

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「そして、未来」

3改変シリーズ完結本「終戦、そして」をお求めくださった方へ同封したペーパーです。
ラストシーンの数日後になっているので、ネタバレを含みます。
といってもそんなに大したネタバレではないです。
ルックが生きているよ! やったね! という前提でお読みいただけたら嬉しいです。

坊ルクで同人誌出す夢がやっと叶いました。
装丁もすごく満足いく仕上がりになりました。
このサイトを昔からご覧いただいていた方にたくさんお声がけいただきまして、本当に、書いてよかったと感謝の念でいっぱいです。
幻水3の20周年が近付く中、ついに自分で納得いくルック救済ストーリーを世に出すことができましたので、これで安心して坊ルクのあれやこれやをたくさん書けますね!
今後はもりもり坊ルクを書いていきたいなと思います!









 陽光が肌をじりじりと焼く、だだっ広い草原だ。
 ヒューゴはフーバーの背に乗って、もの言いたげに二人を見ている。ヒューゴの数歩前をトランの英雄アスフェル・マクドールがバンダナをそよがせて涼しげに歩き、その隣を破壊者ルックが、一歩一歩、大地を踏みしめるようにして歩いている。
 ルックはゆったりしたローブに身を包み、木の杖をついていた。右半身をかばうようにして歩いている。草むらに杖がさくっと刺さり、ルックの一歩が静かに続き、そしてまたさくっと、静かに。ヒューゴがうんざりするくらいのんびりだ。この調子ではヤザ平原へ辿り着くのにいったい何日かかることか。
 アスフェルとルックがビュッデヒュッケ国を出立すると聞かされて、ヒューゴは正直なところ、ほっとした。破壊者を処刑すべきという意見はリザードクランとカラヤクランを中心に根強かったし、ルックの逗留する宿屋へ腐ったトマトがぶちまけられたりする騒動が、毎日のように起きていた。ヒューゴはルックを殺さないと決め、これからのルックを信じるとも決めたけれど、ヒューゴ以外の皆にとってはそうではない。ルックがしたことを許す気持ちにはなれないだろう。だからこれ以上、城に滞在してヒューゴや皆の感情を逆なでしてほしくなかったのだ。
 しかし、いくら出て行ってほしかったとはいえ、ヒューゴはルックを殺さず解放する責任を負うべきだ。そこでヒューゴは、建前上はアスフェルのお供をするという理由でこうして二人に同行していた。
「ヒューゴ、魔物だ」
 アスフェルがすっと立ち止まる。ヒューゴは即座に気を引き締めて、フーバーの背から飛び降りる。
 草原には弱い魔物がうようよしていた。ヒューゴは素早く短刀を振るい、慣れた手つきで魔物を倒す。隣ではアスフェルが棍を、まるで舞踊のように操っている。ヒューゴが惚れ惚れするほど美しい戦い方だ。これを間近で見られるのだから、この人に付いてきて良かったとヒューゴは本気で思っている。
 そして、二人がてきぱきと魔物を片付けている間、ルックは座ってのんびり休憩しているのだった。
「おい、あんた」
 ヒューゴはルックへ刃を向けた。
「手伝えよ。オレとアスフェルさんにばっか戦わせて、どういうことだよ」
「適材適所」
「破壊者のくせに、あんな弱っちい魔物も倒せないのか」
「はぁ? そんなこと言ってないけど」
「言ってるだろ。毎回魔物が来たらそうやって逃げてるじゃないか。そうか、風の紋章が使えなけりゃ何にもできないんだな」
「……あんた、真なる風の紋章でグラスランドごと切り刻んでほしいわけ?」
「オレがここにいるから、そんな力は出ないだろ」
「……分かった」
 ルックがゆらりと立ち上がった。
 何だ、殴り合いかと、ヒューゴは好戦的に笑う。だが視界の端で、アスフェルが頭を抱えているのが見えた。
「魔法の何たるかを教えてあげるよ」
 ルックが木の杖を水平に構えた。途端に足元から風が湧き、ルックのローブと髪をふわふわと巻き上げた。詠唱がとんでもなく速い。何を唱えているのか聞き取れないほどだ。
「ふふん、遊んでやりな」
 ふいにヒューゴの目の前が盛り上がった。地鳴りとともに土が隆起し、ヒューゴの倍ほども高いゴーレムが現れた。
 ここいらの魔物とは比べ物にならない。ヒューゴは獣じみた勘で咄嗟に飛び退る。ゴーレムが腕を一振りすると、先ほどまでヒューゴのいた場所に大きな穴が開いている。
 アスフェルがやっぱりと項垂れていた。
 ヒューゴは「アスフェルさん、すいません!」と叫んで短刀を構えた。


 ゴーレムがついに倒れる。ざらざらと砕けて土へ戻り、風に吹き散らされていく。
 ヒューゴは汗のしたたる顎を拭った。倒すのにどれだけ時間がかかっただろう、ヒューゴもアスフェルもへとへとだ。
「アスフェルさん、何なんすかこれ。平頭山のブルークラブより強くないですか」
「強いに決まっているだろう。ルックが召喚したんだぞ」
「先に言ってくださいよ!」
「君が先に喧嘩を吹っかけたんだろう」
 ヒューゴはぺたんと座り込んだ。
(ルックを本当に信じていいのか? 今オレ、本気で殺されかけたよな?)
 肩で息をしながら、ヒューゴはルックの姿を探す。まさか、またさっきみたいに座って休憩しているのだろうか。そうだったら今度こそ考えを改めねば。
 しかしルックは見当たらなかった。アスフェルが立ったまま――まだ体力が残っているのだ――肩をすくめて笑っている。
「とっくに転移したよ」
「転移?」
「宿を取ってくれているだろうから、俺たちも向かおうか」
「宿?」
「イクセの村で宿を取っていると思うよ」
 ヒューゴにゴーレムをけしかけておいて、自分だけ先に転移したのか。いや、そもそも、転移できるならこの暑い草原をなぜのんびり歩いていたのか。
 ヒューゴは仰向けに寝転がってじたばたした。フーバーがヒューゴとアスフェルを背に乗せて、二人分の重みに苦しみながらイクセの村まで飛んでくれた。


 イクセの村は、ほかならぬカラヤクランを中心としたグラスランド軍が焼き討ちを行った場所である。ヒューゴはフーバーの背に隠れるようにして村へ入り、ルックがいるらしい宿へ向かった。半信半疑だったが、宿は確かにアスフェルの名で三人分取ってある。
 アスフェルが唇に人差し指を当てたので、ヒューゴは静かに、息を殺して、ルックが取った部屋へ入った。
 ルックは眠っていた。
 小さな寝台が三つあるだけの安部屋で、ルックは小さく丸まって寝ていた。ヒューゴが覗き込んでも起きない。顔色は明らかに悪く、眉間に皺が寄っていた。
「ルックは意地っ張りなんだ」
 アスフェルが小さく囁いた。
「まだ歩けるような体じゃない。転移なんてもっての外だ。それに、ルックは真なる風の紋章と魂が融合しているからね。五行の紋章が抑制されている今、君がそばにいる限り、魂を鎖で締め上げられているようなものだろう」
 勘違いしないでくれ、とアスフェルはヒューゴの肩を叩く。
「君が付いてこなければ良かったという意味じゃない。五行の紋章はこの世界中、どこにだってありふれているだろう? ルックはどこにいても苦しむんだよ」
「……オレのせい?」
「外で話そうか」
 アスフェルはヒューゴへマントを寄越した。ヒューゴはありがたくマントを羽織り、カラヤ族の服が見えないようにして外へ出た。風車まで歩く。
「ヒューゴ、君は罪悪感を覚えている」
 アスフェルは風車を見上げながら言った。
「ルックもそうだ。彼は正義のために何人もの命を奪った。それに、俺もだよ。俺は俺の信ずるもののため戦い、何万人もが命を落とした」
「でもアスフェルさんはトランを」
「俺はトランを解放した。けれど同時に、俺は赤月帝国を滅ぼしたんだ。もしもルックがグラスランドを滅ぼしていたとしたら、どちらの方が、より規模が大きかっただろう。無念の内に死んだ者からすればきっとどちらも同じ悪鬼だ」
 その理屈ではヒューゴも同じだろう。ヒューゴは戦った相手を思い出す。ヒューゴにとって敵だった相手も、親がいて、子がいて、友がいて、生きたいと望む理由があって、生き残りたいと願ったはずだ。
「君が罪悪感を抱くのは当然だ。ルックも、俺も。……だがヒューゴ」
 アスフェルはヒューゴを真剣に睨んでいる。ヒューゴは奥歯を噛んで、臆している自分に喝を入れる。
「君は言っただろう? 今の世界が好きだと」
「――言った」
「俺も好きだよ。それにルックも。この世界が好きなんだ」
 風車は優しく回っていた。風がヒューゴのマントを揺らし、草木の匂いが通り抜けた。まだ焼け跡の残る大地には、ところどころ、緑色の芽が顔を出していた。
「いつの日か……君がその紋章を外さなければ、いつか遠い先の未来で。三人で笑い合って酒を飲める日が来たらと、俺は願っているよ」
 ヒューゴは口をへの字に曲げた。
「やなこった」
 そう言わないと、なぜだか泣いてしまいそうだった。


 ヒューゴたちが宿へ戻ると、ルックは身を起こしていた。髪に寝癖が付いている。
 アスフェルが駆け寄り、かいがいしく寝癖を直す間、アスフェルさんってルックに対してだけ変なんだよなぁ……とヒューゴは世の中の不思議を考えた。普段はまともで、優しくて、強くて、英雄然としていて、頼りがいがあって、立派で、その他諸々とにかく完璧な人なのに、ルックを前にするとただの酔っぱらいオヤジのようになる。酒場で女性にだけ絡むオッサン、あれと同類だ。なぜなんだろう。
 そしてかいがいしく世話をされているルックはといえば、物騒な目付きでヒューゴを睨み、「最悪。死ぬかと思った」と毒づいた。
「オレのセリフだー!」
「ここまで魔力が抑えられてると思わなかった。ゴーレムごときで僕の生命力まで削られたらどうしてくれるの」
「出さなきゃよかっただろ!」
「倒すのに時間がかかりすぎたからって僕のせいにしないでくれる? 自分の実力不足を認識したら?」
 アスフェルさんは本当に変だ、とヒューゴは憤る。こんな最低な性格のやつ、本当に助けて良かったのか?
「ルック、顔色がまだ良くないな。宿屋の女将さんに何か作ってもらおう」
「無理。まだ食べられる気がしない」
「食べないから回復が遅いんだ」
「放っといて」
「うーん、けれどもし俺が本当にルックを放置したら、ルックは俺に愛想を尽かされたと思い込むだろう?」
「うるさい!」
「俺には嘆く権利があるからな。これから十五年分はルックを構い倒して良いことになってる。覚悟するように」
 アスフェルさんって人が悪い……。
 ヒューゴはマントを頭からすっぽり被って、しばらくふくれっ面をしていた。


 遠い遠い未来の話。
 今の仲間が皆いなくなっても、炎の英雄がおとぎ話の存在になっても。ヒューゴの決意を、ずっと覚えている人がいる。
 それを、あんな風にしてヒューゴに気付かせてくれたアスフェルのことを、ヒューゴはやっぱりすごい人だと思う。
(ルックは酒なんか飲まなさそうだけどなぁ)
 クリスやゲドとはすぐにも飲めそうだ。
 もし二人が応じてくれたら、飲みながらどんな話をしようか。三人に共通する話題といったらジンバのことくらいしか思いつかない。他にもいろいろ話せるだろうか。互いへの恨みを吐き出す場になってしまうかもしれないし、何度かは喧嘩してしまうかもしれない。けれど、互いの生い立ちや、好きなもの、思い出、カラヤにいては一生知ることのなかった広い世界を、彼らを通して見られるだろうか。
 ヒューゴは未来に思いを馳せる。
 色とりどりの花が咲き乱れ、風が舞い、子供たちがのびのびと走り回っては楽器を奏でる、温かい世界を想像する。
 ああ、きっとそうだ。
 そこでは、破壊者だった男がきっと、嬉しそうに笑っている。




お読みいただきありがとうございました!

「終戦、そして」記念ペーパーより再録

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