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夕 凪 大 地

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「不老」考察

いつか語らねばと思っていた「不老」について。
私なりの観点で書き連ねたいと思います。

本当にどうでもいい話ですから、暇で暇で仕方のない時にチョコでも食べながら読んで下さい!
(私はショパン第11番をお供に書きました…)

そもそも老化とは何か。
http://genetics.fc2web.com/さんから引用させていただきます。

 老化の定義は、「成熟期以後、加齢とともに各臓器の機能あるいはそれらを統合する機能が低下し、固体の恒常性を維持することが不可能となり、ついには死に至る過程」とされている。つまり、固体が成熟した後は年をとるごとに体内の環境を一定の状態に保つことができなくなり、衰えていくということだ。
 

では、老化のメカニズムはどうなっているのかというと、諸説あり、実はまだきちんと解明されていないようです。
これを老化学説といいますが(こんな面倒なことを研究している学者さんは本当にすごいと思う…)、代表的なものが6つあるようですので、これもまた引用させていただきましょう。

 ① プログラム説 老化はあらかじめ遺伝子にプログラムされた積極的な現象であり、寿命も遺伝子により制御されているという説。

 ② エラー説 DNA、RNA、タンパク質は突然変異や化学修飾により本来とは違った配列になることがある。このような変異(エラー)が蓄積して細胞の機能が正常に働かなくなったり老化が起こるという説。

 ③ クロスリンキング説 コラーゲン等の物質は相異なる複数の高分子と結合して新しい高分子を作る(クロスリンクする)。このような物質は分解されにくく、細胞障害を起こしている可能性がある。これにより老化が引き起こされているとする説。

 ④ フリーラジカル説 原子は正に帯電した原子核とその周りを回る負に帯電した電子に分解できる。電子は一つの軌道に2個ずつ収容できるが、1つの軌道に電子が1個しか収容されない場合がある。このように対とならない電子を不対電子といい、不対電子をもつ分子をフリーラジカル(遊離基)という。このフリーラジカルは反応性に富み、タンパク質、核酸、脂肪などの生体構成成分と化学反応を起こして障害を起こす。これにより細胞機能を低下させ老化を引き起こすという説。

 ⑤ 免疫異常説 加齢に伴い免疫機能(体を外的から守ろうとする防衛機能)を担当する細胞の機能が低下し、自己の体の成分に対して抗体を形成することが増える。これにより体の一部を外的と見なして攻撃してしまい、老化が起こるという説。が、自己免疫疾患の多い女性の方が男性より長生きであるという矛盾が指摘されている。

 ⑥ 代謝調節説 細胞の代謝速度(代謝とは栄養物質を摂取し自体を構成したりエネルギー源とし、不必要な生成物を排出するといった物質の変動のこと)が細胞分裂速度に影響して、老化や寿命を支配するという説。代謝の高い動物ほど短命で、代謝の低い動物ほど長命という傾向があるようだ。


ええと…難しすぎるんですけど…。
とにかくいろんな原因が体に障害を起こして老化になると、そういうことでご勘弁下さい。
難しくて私もよく分かってないです。
そもそも私、生粋の文系ですからね。
ご容赦下さい。

だんだん理系の人に読んでほしくない文面になってまいりました…。





さて本題。
では、紋章による「不老」とはどのような状況を指すのか。

カスミが坊様イベントで「全く変わってない」と言うように、肉体が紋章を継承した時点で時を止めてしまう、というのが一般的な解釈のように思います。

しかし、それだと、テッドとルックの成長っぷりだとか説明できないんですよね。

まぁオフィシャルではテッドに関して「数年間紋章をはずしていた時期に成長した」だの(何ではずしても死なないんだとか突っ込みたいですが)、そのはずしていた時期が4の霧の船だの(ソウルイーターだけじゃなく真の紋章って基本的に宿主を選ぶっていう設定でしたよね、おいおいあの人間ですらなさそうな怪物が選ばれちゃったんですか?)、まことしやかな(ともいい切れませんが)説明がなされております。
まぁいいでしょう、テッドはそれで良しとしましょう。

じゃあルックはどうなのよ!?

1時代はまだ12才とか日本で言うと小学生ですから、何をどうしても3の身長166センチの設定には程遠いでしょう。(つか3の身長設定がそもそも笑えます、セラ高すぎ)
百歩ゆずってあれでも一応166センチあったとしても、1時代と2時代では明らかに髪が伸びています。
ということは、ルックに関しては、肉体が1時代から2時代の間に成長してたわけですよね。
髪は爪みたいに皮膚の一部が角質化するわけですから、伸びるということは髪の細胞が成長しているということです。
まさか頭皮付近だけ成長する特異体質だとか、大穴実はカツラなんて想像はよしましょう…。

ということで、「不老」とは、成長しないこととイコールではない、ということになります。



では、具体的にどういう状態なのでしょうか?

まじめに考えると、成長するけど老化しないんだからどんどん成長し続けるということになります。
新陳代謝は常に行われていて、体細胞分裂も繰り返されている。老化というリミットがないため、ゆるやかにしかし確実に成長は進む。

こう書くと、巨人症に似てるようにも思えますね。
以下、http://www.nurs.or.jp/~academy/さんから引用させていただきます。
下垂体性巨人症・先端肥大症
「概念」
成長ホルモンが分泌過剰となるもの。
巨人症とは骨端線閉鎖前のものであり、
末端肥大症は骨端線閉鎖後のものである。

「病因」
本症原因の99%は下垂体腺腫による。

「症状」
① 腫瘍圧迫症状
下垂体腺腫が、鞍隔膜を伸展させ、早朝に著明な頭痛。
また、鞍隔膜を押上げ、視交叉を下方から圧迫するため、
視神経の内側の線維を侵し、本症に特異的な両耳側性半盲。
② 肥大化症状
骨組織、軟骨、軟部組織が肥大する。
顎突出、巨大舌、口唇肥大、heel pad thickness。
著明な発汗過多、正中神経障害による手根管症候群。
心肥大による心機能低下、甲状腺肥大による甲状腺腫、
声帯増大による音声低下、腎肥大による糸球体濾過増加。
③ 代謝関係
電解質貯留作用により、高血圧。
脂質分解作用によって、高脂血症
抗インスリン作用にて、耐糖能異常。
④ その他のホルモン異常
黄体形成ホルモンや卵胞刺激ホルモン産生細胞が、
特に侵されやすく、無月経、性欲低下が認められる。
高プロラクチン血症となり、女性は乳汁分泌を来たす。

とりあえず成長するということは髪も伸びるしフケも出る、ここまでは問題ないでしょう。
でもこうして成長し続けると、この場合はホルモン異常で特定部位だけが極端に成長しているからこのような症状が出るわけですが、あまりよくない感じですね。
さらにもし巨人症のような症状にならなかったとして、つまりすべての組織が均等に成長し続けたとして、その状態がいつまでも続くと、臓器やら皮膚やらは使い古されていくわけなので、結局は機械に耐用年数があるように肉体にガタがきてしまう、つまり老化につながってしまいます。
…よね?



そうです。
ここで、

紋 章 の 出 番 で す ! (言ってて恥ずかしい)



紋章は、極端な成長を妨げる機能と、ある程度使ったパーツを自動で取替える機能が搭載されているのです!
たとえば細胞分裂を遅らせる、つまりファイナルファンタジーで言うとスロウの魔法になりますが、そういったものを肉体にかけることで成長速度を落とすとともに細胞の疲弊を防ぎ、結果として耐用年数を稼ぐ、みたいな。
または、肝臓そろそろ20年使ったし新しいの再生しとこうぜ、はい取り替えっ子、という手段もありえます。
そして通常の人間で言うと20代前半くらいの肉体年齢に体が差し掛かったあたりから、外見的に成長しなくなったように見えると思われます。
なぜ20代かというと、普通10代の体は大人に向けて変化しているため、それをとどめることはいくら紋章といえど苦しかろうと思うからです。
というかそれすらとどめてしまったら、ルックの髪も爪も伸びないわけだし、ええと小学生にはなくて中学生にはあるもの、例えば直接単語を出すと精液とかですよ、そういうのがないまま30代になるとかちょっとかわいそうすぎじゃないですか。
しかも、魔力を安定して紋章に供給するためには、ある程度肉体が成長してないと難しいですよね。
ということで20代までは微妙に成長して下さい。(←願望です)
もちろん通常の人間より成長速度は遅かろうと思います。普通1年で育つところを5年くらいかかって育つんだとは思います。
成長する間にも並行して進む老化を紋章は食い止めなければなりませんし、成長だけがつつがなく進むとそれこそ巨人症でしょう。
でも肉体の衰退、つまり老化は抑制されるので、肉体年齢20代くらいで体が成熟し安定すると通常の人間と同様にホルモンバランスが調節されて成長が止まり、次はその状態の維持に入るわけです。
だから見た目には変化がほとんどないように見えます。
これがカスミ大先生の「変わってない」発言につながるわけです。
そして最初に提示した6つの学説に従うのなら、突然変異や異常がまったく起こらず、また体内の毒素や不要物、過剰反応物は常に除去され、遺伝子に組み込まれた細胞分裂のリミットはそれ自体が取り払われる。

老化に関わる現象の一切を排除することが、紋章の潜在能力だったわけです!



つきつめて考えると、水の紋章とかの癒し系の魔法はどういう状態にどういう効力をもたらすのかも議論すべきなんですよね。
戦闘により傷ついた、または破壊された細胞を復活させる効力があるのなら、真の紋章を宿した肉体に対してもその老化する細胞を常に最初の状態へリセットする力があっておかしくないのです。
怪我を治すってことは少なからず壊れた細胞を修復する能力があるわけですし、これはなかなかいい仮定でしょう。



…小波さん以上に強引な説です。



この「不老」イコール「老化抑制」説は、当初からかなり意識しておりました。
実は、そういうつもりでルックの髪が伸びる描写があったり、坊様の身長も少しずつ変わっていたりします。
1時代には「見た目が変わらない」という表現を坊様にもルックにも使っていません。
きっと少しずつ身長が伸びたりして大人の体型へと成長しているはずだからです。



何が言いたかったかというと、髪は伸びますと言いたかったんですけどね…。
坊様はルックの爪切りしてあげますよとか、そういう小ネタをやりたいだけなんですけどね…。





長々とお付き合い下さりありがとうございました。





お詫びとお礼のゲロ甘坊ルクです。



「どう? 似合う?」
くるりと一回転して真紅の振袖をひけらかすのは、相変わらず何を着てもひとかたならぬ出来栄えを誇るアスフェル御曹司。
花吹雪と牛車が描かれた振袖は随所に散らばる金色が目の覚めるような美しさで、もはやレンタルとは思えない高級感である。
よって、表情だけで一流を醸し出すことのできるアスフェルの顔立ちに化粧という装いは必要ない。
だがそれを自覚しつつも悪ノリしてみたらしい薔薇色の口紅が、まるでアスフェルを引き立たせるために作られた製品のごとく匂いたっていた。
「似合うとかじゃねぇよお前……」
アスフェルの正面で床へしゃがみこんで頭を抱えるのは、ついにゴールデン司会枠を獲得した急上昇マルチタレントことシーナ。
売れっ子ながら無遅刻無欠席で毎日元気よく高校へ通っているのは学業優先を父親に言い渡された故である。
学園祭に演劇なんて項目を入れたのはどこのどいつだ、と口中でぼやくシーナの悲哀を寸分違わず的確に読み取って、アスフェルは実に妖艶な笑みをその淫らな口許へ刷いた。
「というより、配役がマッシュ先生らしい周到さだな」
担任教師の執筆した脚本は、端的に述べると、さまざまな問題に直面しては心に飼う善と悪の狭間で葛藤する若き男の一生。
現代社会を反映したといえば聞こえはいいが、要はいかにもよくある陳腐な内容である。
「何で主役になっちまったんだ俺……」
「客寄せ」
「お前なぁ、幼稚園の頃からずっとだけどよ、俺に対して、も少し棘のない言い方はできんのか?」
「それは俺にシーナへ好感情を持てと言うのと同じだな。最大限善処しよう」
アスフェルは何事にも前向きである。
そのポジティブさが今回の事態を引き起こしたわけであるが、本人が俄然楽しんでいるためシーナには据えてやる灸もない。
今回だってアスフェルが半ば進んでこの衣装を着始めたのだ。
本番はこの格好で髪を結わえ上げ、根元にコウモリの羽をあしらうという。
完璧な悪魔役である。
誰かこの視覚効果を百二十パーセント以上理解していて尚こういうあくどいことをしでかすお茶目な坊ちゃんをとめてくれ。
シーナはひとしきり落ち込んで、されどすぐにきりりと持ち直した。
楽天的過ぎるのがシーナの長所だ。
さて練習と、真紅の友禅を見ないように立ち上がった。
その時、がらり、扉の開く音。
「ねぇ、これ歩きにくいんだけど」
ロッテがヒックスへ熱心に演技指導をしている傍、立て付けの良くない教室の扉をよろよろと引いて、ぎくしゃくした足取りで入ってきたのは衣装合わせを終えた天使役。
ルックの姿に、シーナは目を奪われた。
ゆるく波打つ金髪は腰までとどき、膝丈のワンピースはふわり広がる純白。
睨まれた覚えしかないきつい瞳は、長い睫毛が綺麗にカールされてとたんに毒気を抜かれたようだ。
不健康そうな薄い唇には淡い桃色のグロスが乗せられ、胸の辺りは大きめのコサージュが白い花を咲かせているため都合よく性別の判断がつかない。
足元は背中に小さく生えているのとお揃いの羽で飾られたミュールだ。
そう高くもないヒールでさえ相当不安定らしく、まるで忍者のように抜き足差し足、慎重に一歩ずつ足を出している。
「ああ、もう嫌。痛い」
投げやりに言うや否や、ルックはぽいとミュールを放り出した。
裸足でぺたりと降り立った床が、さながら楽園へ続く花畑に見えて、シーナは思わず目をこする。
「……気合い、入れすぎじゃね?」
ようやっとそれだけ口にすれば、ルックはつんと唇を尖らせた。
「シルビナに言って。三日後の本番は一日中ずっとこのままってだけでうんざりしてるんだから。足、擦り剥けそう」
「……そういう問題じゃないんだけどな……」
シーナは眩暈を覚えた。
何故シーナがここまで落ち込んでいるかというと、自他共に認める無類の女性愛好家として、この二人が女装すれば間違いなくそんじょそこらの女どもより数倍は魅力的に違いないととっくに予見できていたからである。
そして期待を裏切ってくれぬ二人の仕上がりにどうしようもなく早鐘を打つこの心臓。
シーナにとってはこの上なく自己嫌悪の対象だ。
ルックが足元を不快げに見下ろすたびカツラとは思えないブロンドが儚く揺れて、これが本当の女だったら、いやルックじゃなかったら、うっかり口説きにかかっていてもおかしくはないかもしれないのだ。
(俺って、見た目さえよけりゃ誰でもいいのか……?)
シーナはフェミニストになりたいのであって女好きになりたいのではない。
責任転嫁しようにも片や無自覚、他方は分かりきっての演出だから、結局惑わされるだけ己の愚かたる証明にしかならない。
そういえばアスフェルはこれを見てどうなんだ、と突然思い至り、シーナはそっとアスフェルへ視線を移した。
「……」
アスフェルは、憑き物の剥がれたような顔をしていた。
本来なら演技であってもそうでなくても感情表現の豊かなアスフェルが、ここまで素顔を晒している。
ただ一心不乱にルックだけを映す漆黒の瞳はこころなしか潤んでいて、真紅の振袖は小悪魔から清純な少女のまとうそれに変容した。
見ていられなくなってルックを振り返ると、ルックはようやく顔をあげたところで、アスフェルを下から上までまじまじ見つめるなり一気に頬を染め上げる。
穢れを知らぬ天使が真っ逆さまに地へ落ちたようなギャップである。
互いにしばらく見つめあい、しん、と教室が静まり返ること数十秒。
「……ええと、通訳しましょかね」
教室中の視線に向けて、どうやら互いに一目惚れし直したみたいです、と説明するのは、結局二人の幸いを望むシーナにとって少し惜しい気もしたのだった。








「……俺、精神科行った方がいいですかね……?」
トラン湖城、草木も眠る丑三つ時。
リュウカンを叩き起こしたシーナは、何がショックかってこの夢のせいだとは思いたくないが夢精していた、と涙ながらにひとしきり訴えた。
リュウカンの専門は薬学であって、精神分析は管轄外だ。
深夜に起こされた恨みは少年のかわいらしい悩みで帳消しにするとして、いくらリュウカンでも不可解な夢の診断まではしてやれない。
だから尤もらしく慰めた後、一週間分の白い粉末を手渡した。
「ストレスがたまりすぎて奇妙な夢を見ることがあるから、これを就寝前に飲みなされ」
……小麦粉である。
病は気から。シーナならこれで治るだろう。
果たしてリュウカンの読みは正しく、シーナは薬を見ただけで気を直した。
「ちょっと風にあたってから寝ます。ありがとっした!」
安心しきった顔で深夜の非礼を詫びる単細胞少年に、リュウカンは懐かしい青春の思い出を去来させたのであった。



粉薬を飲んでみる。
パサパサして飲みにくいが、水で流し込めばほどなくすっきりした感覚が得られた。
これはなかなか効力がありそうだ。
シーナは本館からレパント親子にあてがわれた離れまで真っ直ぐ戻らず、西塔へと足を向けた。
月が西方にあったからである。
夜目ならあのけばけばしい庭園も闇の帳に覆われるから、花の香りに包まれながらひとり月見と洒落込めそうだ。
風流に違いない。
酒類のないのは物足りないが、今宵の十六夜はそれ以上の価値がある。
西塔へ続く陸橋に足を踏み出し――シーナは慌てて柱の影に身を隠した。
話し声がするのである。
聞き覚えのある優美なテノールと、いつになく嫌味のない澄んだ声だ。
シーナは顔だけ突き出した。
人影がふたつ。
湖へ足を投げ出して座るふたりを包むように、透明な泡がいくつも舞っている。
泡は、橙や紺や月の色、その他幻想的なあらゆる色に煌いて弾け消えた。
それはしゃぼん玉であった。
ルックの吹くストローからは小さなしゃぼん玉がたくさんこぼれ出ている。
アスフェルはストローを繊細に扱って大きいしゃぼん玉をひとつずつぷかぷか浮かべていた。
「だから、フリックの騎馬隊が防御力低すぎ」
「それなりの装備はさせてるよ。布陣も防御重視にしている。あれは運がなさすぎるんだ」
「あいつらのせいで土の魔法をいくらかけても足りないじゃない」
「そういえばルック、クロウリーが主将になってから明らかに手を抜いてるだろう」
「悪い?」
「せめて悪びれるくらいしたら?」
「あんたの前では意味がないよ」
話しているのは相変わらず戦争談義のようだ。
手元に書類が散らばっているのも見受けられる。
だが、しゃぼん玉とともにゆったり流れるのは血生臭い話題へおよそそぐわない和やかな空気。
話しながらも球体の浮遊が途切れることはなく、月光に反射してはいくつもの虹世界がそれぞれの小宇宙を形作る。
ルックがゆるく風を巡らせた。
しゃぼん玉は寄り添い離れ合い、自由に夜空を彷徨する。
無意識なのだろう、ごくささやかに笑んでいたアスフェルが、慎重な手つきで大きなしゃぼん玉を吹いた。
ルックがそっとストローを差し入れ、中に小さなプリズムを詰め込む。
やがてふわりと飛翔したしゃぼん玉は、寛大な世界にたくさんの虹の欠片を抱いて泳いだ。
(……綺麗だ)
シーナの胸は締め付けられる。
ふたりを繋ぐ何か透明な、されど芯の通ったものが見えた気がしたのだ。
それは意外と脆いのかもしれないし、シーナが肉親や友人やその他多くのものに寄せる感情のどれよりも遠いのかもしれない。
シーナの人生観は快く楽天的だ。
ひととはいずれ死ぬもので、愛情も富も経験も含めて死ぬまでにどれだけたくさんのものを得るかが人生なのだと思っている。
だから楽なことや楽しいことを追い求めるこそ人生の醍醐味であり、義務責任は人生の拘束具に過ぎない。
でも普通に生きるだけなら、強がったり縋ったり、誰かと歩調を合わせてばかりだったり独り善がりばかりでいたら、こんな神聖な絹糸を結ぶことなどきっとできないのだ。
または憎しみや悲しみや、苦しみ、渇望、慟哭、我慢、どれも努めて忘れるように感じないようにとするものをいちいち真正面から受け止め続けたら、その先にわずか見えるのかもしれない。
シーナとまったく異なる環境下、異なる考え方で育ったあのふたりは、シーナには持ち得ない何かを確実に守っていた。
(綺麗だ)
シーナは、そんな得がたい何かが己の可視範囲に在ることへ感動したのだ。
人生とは選択の連続だから、シーナが良かれと思って選んだ道をもし選ばなければ、そこには少なくとも今と違った出会いがあったはずである。
一度きりの短い人生だから、選ばなかったものや決して手に入れることのできなくなったものが必ずあるのだ。
シーナは己がそれを持たぬことを悪いことだとは考えていないが、できることなら、いったいそれがどんなものなのか知りたいとは思っている。
それこそ人間交流の本質であり、遊学と称してシーナが求め続けたものなのかもしれない。

シーナは北塔へ戻った。
知らず鼻歌が漏れた。
月に照らされて連絡橋を歩くうちに、夢の続きも気にならなくなってくる。
「これも人生の面白み、かね」
どうせなら思い切り楽しもう。
シーナは楽天家らしく、せっかくリュウカンに処方してもらった粉薬を、一気に湖畔へと吹き散らしてしまったのだった。
小麦粉は、あのしゃぼん玉のように夜空へ掻き消えた。




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