今から携帯圏外の山村へ向かいます。
明日か明後日に帰ります。
が、パソコンはし明後日まで触れないかも?
なのでそれまでにどうしてもあげときたかった小小話、4時間睡眠で早朝からこそこそ仕上げました!(眠すぎ)
夕凪大地的、5取扱説明書です。
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セラス湖城にすっとんきょうな声が響き渡った。
「あんたが王子ぃィ!?」
「はい。カノンアシュリイです」
「、へ?」
「カノンアシュリイ。カノンで結構ですよ」
「……っンだこの慇懃無礼ねぎ頭はァーー!!!」
長い名前はよく聞き返される。といっても国内でこの名を知らぬものなどよほどの阿呆か異国者、すなわち厄介事に違いない。
周囲の気配がぴんと逆立つのを察知して、ことさらにこりと微笑んでみせたファレナ女王国王子――現在は反乱軍首魁と呼称されることもたまにあったが――に向かって、汚い身なりの少年は手にした弓を折らんばかりにブチ切れた。
カノンが悪いわけではない。単に相性の問題だ。長い名だから省略して良いと言ったのを、実際ほとんど皆がカノンと省略して呼んでいるのだが、お前は覚えられなさそうだからと哀れまれたようにでも感じているのだろう。
「なら敬語やめるけど。僕が仮にも一国の王子だってわかってる?」
「わかってねぇからびびってんだろお前こそ脳味噌足りてんのかこら! つうかカノンアシュリイ言いづれぇな、俺は赤い服のやつを探してんだ。ファレナの内乱なんかにゃ興味もねぇよ」
旅の少年はきちんとカノンの名を呼んで、ぶんぶん頭をうち振るった。髪なぞ特に煤け汚れて蚤の飛び出す心地さえする。それくらい少年の見た目は汚らしく、しかし無視してはおけない威圧感がどこかにあるのも事実であった。だって、ゼラセがこちらを見ている。これだけで少年の特異性が証明されよう。
カノンは傍らの護衛をちらり見遣った。
「リオン、どうする?」
「――追い出します!」
即決、簡潔に過ぎる回答、言いざまリオンは腰の刀をさっと抜く。威嚇である。
しかし少年はまるで動じる素振りもなかった。持っていた弓の先で頭を掻いたりさえする始末。リオンに少年の命をどうこうするつもりはないと冷静に見て取ったのか? ならば相当の手練にやあらん。
「や、確かにこの城赤い服のやつが多いっぽいんだけどさー、俺の探し人はいねーみたいなんだわ」
少年の台詞にひどく気落ちした気配が混ざった。同時に永い永い年月をひたすら探すことに費やした者しか持ち得ない諦観と闊達が鼻孔を削いで、カノンは思わず両目を瞠る。
この少年は、――少年か?
「そういやお前、じゃなかったカノンアシュリイもぼろっくさーい平民服着てただろ? その背中丸出しのやつじゃなくてさ」
だが次いで少年の発した揶揄の台詞に、カノンはあやうく三節棍を繰り出しかけた。
重ねて言うがカノンまたは少年に非があるのではない。単に相性の問題である。少年はその平民服が尋ね人に似ていたからこそこの城まで割り出したのだし、カノンが好き好んでそれとなく露出度の高い衣装を身に纏っているわけでもない。
しかしながら一触即発の状態になったのは事実であった。
そして、カノンがどうにか棍を振り回さずに済んだのは長閑な女王騎士のおかげであった。
「おうじー、どうしたんですかー? 立て込んでるんでしたらお昼ご飯ご一緒できませんー?」
「行く!」
途端に少年へ興味を失したカノンの面を、少年はじっと探り見る。どこか懐かしき星の匂い。ひとを惹きつけずにはおれない光。自分の求める男も同種の輝きを持つ――希望という灯に昇華させてだ。
カノンはするりと少年を置いて立ち去った。
少年はそれ以上居座ることもなく旅立った。
「テッド、てんだ」
すれ違う刹那に届いた声が、カノンへ少年の名前を知らしめる。
カノンでいいよ。親しき者にこそ呼んでほしい名をカノンもこそりと言い返す。
届いただろうか……わからなかった。
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拍手に出てきた「カノ」はねぎでした。
皆カノンて呼んでるけど4ちゃんはそれを聞いてもなおカノしか覚えられなかったようです。
しかしこの名前、だいぶ頑張って王家っぽくしたつもりなんですが、カイルと並べて書くとややこしいですね。
カイル、カノン。
しまった絡ませにくい!(笑)
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