周期的になんでしょうか、今は長めの文をどっさり書きたい模様です。
ちょっと前は簡潔に書きたかったんだけど。
おかげで短くまとまらない。
どちらにせよパラレル小小話ですv
アスファルトからここまでネタを広げるのもそろそろどうかと思います。
すいません、安直な管理人で…。
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「キキョウ、なぞなぞだよ」
なぜだか非常に楽しそうな表情で、アスフェルはぴんと立てた人差し指を目の高さで軽く振りながらそう言った。
二人は今夜の分の食材を買い足しにスーパーへ向かっている。グレミオのメモへ書かれたものをすべて買うとなると二人でも持ちきれるか心もとない。それぐらい膨大な量をキキョウはぺろりと平らげるのだ。もう二十五にもなるのにこんなで大丈夫なのか、とはアスフェルでなくとも皆が一度は心配してやるところであろう。事実キキョウの胃袋はちょっとしたブラックホールを内包していておかしくない詰め込み具合を見せつける。
「…うん」
キキョウはつられて楽しそうに笑んだ。基本的にキキョウはアスフェルが隣にいればいつだって上機嫌なので、この時も例に漏れずうきうきとステップなど踏んでいる。
アスフェルはおもむろに問題を出した。
「キキョウと俺は、今どこの上を歩いている?」
キキョウはかくりと首を傾げる。それはなぞなぞとして捉えるべき問いに聞こえないような気がしたからだ。なぞなぞなら例えば、「雲と空の間には何があるでしょう」で答えが「と」だとか、そういう類の、真面目に考えれば不可解に感じられる質問になるのが普通なのではなかろうか。
アスフェルは楽しそうにキキョウを見てくる。キキョウの何かを試そうとしているらしい顔つきだ。ならば素直に答えるしかないとキキョウは一般的に回答してみた。ちなみに、現在二人が歩いているのはスーパーへ続く大通りである。
「…道? 地面? アスファルト?」
「アスファルト。正解」
にこりとアスフェルが目端を緩める。やはりなぞなぞになっていない。意図がまったく掴めぬことに、キキョウは再び小首を傾げる。
「第二問。油溶性樹脂の製造原料である化合物は?」
「…アルキルフェノール」
「正解」
これもなぞなぞとは言わない問いだ。アスフェルの楽しそうな表情が崩れないので、これで彼の画策どおりに進んではいるのだろう。一体何を企てているのか、看破することはまだできない。
「では第三問だ。死んだ妻エウリュディケを連れ戻そうとした、ギリシア神話における竪琴の名手は?」
「…オルフェウス」
「その通り。じゃあ次。紫馬肥、またはルーサンとも呼称されるマメ科多年草の牧草は?」
「…アルファルファ」
「さすがだな」
キキョウは暗記能力に長けている。どれくらい得意かというと、広辞苑程度なら今すぐ全ページ暗唱できるくらいだ。ただし、学問あるいは実生活において必要な場面で必要な要素を取り出すことが難しいため、結局宝の持ち腐れである。
アスフェルは目を細めてキキョウを見つめた。
「なぞなぞを進めよう。第五問。俺の、名前は?」
――賢明な読者諸君は、もうアスフェルの真意を悟り得ただろう。
キキョウは一度もアスフェルの名を呼んだことがない。なまじ記憶力が良すぎるせいで、キキョウは自分でも記憶した情報を自在に出し入れすることができないのである。つまり、初めてアスフェルの名を聞いた時にそれを記憶はしたものの、脳のどこへ仕舞われているかは分からないのだ。よく使う知識や名称や画像類はキキョウの脳内でもごく狭苦しい引き出しにぎゅっと収められていて、キキョウが普段自由に使えるのはそこに書きこまれたメモ帳程度の量しかないらしい。そして、その小さすぎる引き出しへアスフェルのフルネームは入りきらずに、勝手に短縮された一部分だけが収められているというわけである。
キキョウはきょとんとアスフェルを見た。もちろんキキョウは己が何を試されているのか未だもって皆目理解できない。当たり前のことを聞くなぁという表情でわずかに口を開かせる。
「…アス」
「そうだけれど、きちんと言うと?」
「…ア、ス」
「まあ、それでもいいんだけれどね。渾名でなく、ちゃんと言えるか?」
「…んーと。アス!」
キキョウは元気に発声をした。これで正解に違いないと本人なりに確信したのだろうか。無駄に元気な笑顔で答える。
不思議なことに、キキョウは紙へ書かせればちゃんとアスフェルとフルネームで表記する。森鴎外もWilliam Shakespeareもきっちり書ける。なのに言葉へ出てこないのだ。もともと喋ることに関して非常に未熟なところがあれど、いくら何でも度が過ぎている。苦手といっても限度があろう。
「…アス?」
「……そうだな……それでいいよ……」
アスフェルががっくり肩を落とした。キキョウは思わずアスフェルの腕へしがみつく。何やら彼の意図通りに事が進まなかったらしいことを察したためだ。しかし、それが自分の回答にあるとは直接教えてもらうまで認識できないのがキキョウである。そしてどうすれば良いのか分からなくなるととりあえず身体を触れ合わせようとしてしまうのがキキョウの癖で、かわいらしいと思う反面アスフェルは不憫な思いも味わった。
「それでいいんだよ、キキョウ。さ、もうじき着くし、早く買い物を済ませようか。夜は俺の宿題を手伝ってくれるか?」
「…うん」
「昨年度の受験問題を俺が解くから、丸付けをして欲しいんだ。解答はあるよ」
「…うん、手伝う。アスは高校受験するの?」
「もちろんするよ。父様の世話にはならないことにしたから。ルックと同じところを受けるんだけれど……ルックには秘密、な」
「…うん。指きり」
「指きりげんまん、嘘吐いたら、……キキョウは吐かないか」
「…うん! 約束する!」
キキョウはぎゅうっとアスフェルの腕に絡みついた。年齢はキキョウが十も上だが、キキョウはアスフェルのことを第二の兄と思っているし、アスフェルもキキョウのことを大切な弟だと触れ回っている。
二人は仲良くスーパーへ入った。じゃれ合いながらフロアを回り、仲睦まじくカートを押して。
――これがやっぱり痴話喧嘩の原因となるのは、翌日昼休みのことになる。
「……っつう位置づけになるわけね」
「夢に反映させるのがお早いことで。おめでたいことに何とか全員騙くらかしきってご婚約を成立させてしまった大統領子息殿」
「いちいちイヤミくせーなアスフェル、俺はお前のそーゆーとこが心底嫌いだ! ってかそれ言い出したらお前そのものが多分大嫌いなんだけどな!」
「俺もシーナの不躾に過ぎるところが相当鼻につくな」
「んだとこの」
「…あの」
「あァ!?」
「キキョウに粗雑な言い方をするな」
「って! 何も叩くこたねぇだろ! ……はいはいすんません俺が悪うございましたこれでいんだろはい終わり。で、どうした? キキョウ」
「…シーはいつもその夢を見るの?」
「……非常に答えたくないんだがまぁそーだな」
「妄想癖が治らないんだろう」
「だからお前はどーしてそういちいち俺に突っかかんだよもーほんっとマジでむかつくなルックにフラれたからってよ!!」
「……」
「…あ、アス」
「――やべ。禁句」
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時間軸は2の2~3年後、シーナとよんがぼつんに引き合わされてすぐです。
この、ぼつんがふたりを引き合わせる時の話を実はだいっっぶ前から練っておりまして。
いつか形にしたいんです!
…今はきちんとよんを書いてあげられる自信がないので、もっと練りこんでじっくり取り組みたいと思います。
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