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夕 凪 大 地

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「短い魔法」

やっちゃった!

快 コ v

ちょっと待って、これハンパなく楽しいです。
坊ルク並みの進度で書き上がりました。
しかも私の脳内ときたら快斗くんがちゃんと勝平声で動いてくれる!
非常に幸せです(*^_^*)




そういえば引越しのため過去にノートの切れ端へ描きためた落書きを全部捨てたんですが、捨てる前にさらっと目を通してみたら、オリジナルキャラの愛称を「ルー」とメモってありました。

…これ描いたの3プレイ後すぐくらいのはず…。
だってそこここにルック落書きしてあるもん。

うっわ、私当時からよっぽどルック好きだったんだなー(笑)




 ピリリ、と小さな硬質音を奏で出すのはいつも左に入れている方。右がコナンの携帯電話、つまり左は、工藤新一用である。俺は蘭に悟られぬためやむなく緊急手段を取った。
「十八コール目、ということは、君の現在地が毛利探偵事務所の御手洗いだと断定しても良いのかな?」
「てンめ……」
 言い返そうにもその通りなのでこちらは歯噛みするしかない。ごつん、と後頭部をトイレの扉へ凭れさせ、片方だけ履けないスリッパを強引に爪先へぶら下げて、俺は努めて平静を装おうとする。――どうせこいつには全部お見通しなんだろう。
「深夜に何の嫌がらせだ? キッド」
「心外だなー。足の具合が心配でね。まだギブスが取れないようだし」
「よく観察してんじゃねぇか」
 この男、キッドとは先日のとある事件で数時間行動をともにした。もっとも俺が彼の変装を見破ったのは彼が去ってしまってからだ。不覚にも水中へ落ちた俺を助け出し、夢現にぬくもりの欠片だけを残して、キッドは闇へ掻き消えた。
「今回はてめェに二度も助けられたからな。礼は言う」
「こちらこそ。利用しあうのはお互いさま、ってね」
 飄々とした声音の奥で、キッドはきっと片目を瞑っているのだろう。よくよくキザな怪盗だ。
 それでも彼が本当は情け深く仁義に厚い人物であることを俺は身をもって知っている。
 先日にしてもそうだ。俺を助けたのみならず、俺が意識を失っている間、正確には阿笠博士と服部が俺を拾いに来るまでの短い時間、ぎりぎりまでキッドはずっと俺の側にいてくれた。自ら見聞きしたわけではないが俺は彼の行為を確信できる。
 いつか他ならぬ俺こそが縄をかけてみせると宣戦しつつ、俺はキッドの一側面を他の誰より信用しているのだ。信頼している、と言い換えてもいい。
 かすかに吐いた息を攫うごとき儚さで、キッドが小さく呟いた。
「新一。……すまなかった」
「――な」
「俺が囮になるべきだった。お前を一人で銃火に曝すなんて。あの時俺の正体がお前や追っ手にバレちまったとしても、お前に怪我させるくらいなら……俺は……ッ」
「キ、ッド」
「好きなヤツ一人守れないで何が怪盗だ。クソ!」
「……」
「新一。新一」
「……」
 俺が沈黙に隠したものを、電話越しにどうして察知したのだろう。キッドはするりと忍び入る。
「本心だ。信じろよ、いい加減」
「信じられっか! 見た目は小学生のガキを本気で口説く男が世界中のどこにいる?!」
「ここに一名」
「……バーロォ……」
 俺は変声機を握り締めた。真実の声が機械越しにしか出せないのを、これほどまでにもどかしく思うのはキッドを相手にする時だけだ。キッドと対等に渡り合えないことがとてつもなく悔しい。キッドは俺を、ちゃんと、真実の姿で見てくれるのに。
「――君が」
 向こうもいくぶん鎮まったようだ。キッドが再びキッドらしい口調へ戻る。
「君が、一日も早くサッカーに興じられることを祈ろう。一日も早く私を追いかけられるよう」
「そっちこそ、あのドンくさそうな警部にあっさり捕まんなよ」
「君もうかうかしていられないんじゃないか? 早く私を捕まえないと、――私が先に君を心ごと盗んでしまうよ」
「ぬかせ」
 毒づくや、耳を通り抜け脳を痺れさすキザな含み笑いが聞こえた。後ろにノイズは一切ない。案外、今まさに俺のすぐ近くへいるのかもしれない。高校生の俺なら手が届くくらい、ともすればその腕へ飛び込めるくらい。
 嫌な想像だ。
 しばらくくつくつと喉で笑って、キッドは唐突に一方的な別れをもたらした。
「じゃ、またな。小さな名探偵」
「キ……」
 ツー。
 接触を図ってくるのもキッドなら離れてゆくのもキッドから。俺の虚しい返答を待たず、回線は耳障りな音を立てて切れる。
 わざわざ見る間でもない。履歴はもちろん非通知で、ご丁寧なことに毎回異なる番号でかけてきているらしい。まったく手抜かりのない怪盗である。
 これが追うものと追われるものの宿命なんだろうか。探偵の方から手を伸ばせるのは怪盗を幕引かせる一刹那のみ。俺は終わらせるために追い、彼は長引かせるために逃げてゆく。交わらぬ路。
 ――本当に、それだけなのか?
「今、どこにいる? キッド……」
 俺は、無機質な電子音をいつまでも耳へ押しつけていた。


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