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夕 凪 大 地

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「忍びあい」

西川さんの素晴らしさはどう筆舌を尽くしてもとうてい書き表せなくて、めちゃくちゃ悔しい思いです。

で、私はそこからインスパイアされたセクシーだったり切なかったりする雰囲気によく似合うホモを書けばいいんじゃないかと、やっぱり間違った方向転換、してみました。

まずはかわいらしくスイートに甘い、こんなよん。


( ………… よ ん ! ? )




 キキョウは腕へすり寄った。
 軍服はいつも頬に硬くて、だけどぎゅっと絡んでしまう。ここまでひっついたら彼の匂いがするからだ。
「そう引っ張るな」
「…うん」
 笑いながらトロイが諌める。キキョウはそっと手を離す。
 駄目と言われて従う以外の選択肢を知らない。
 ほんとはほどきたくないんだよ。匂いに包まれていたいから。うまく言葉で伝えられなくて結局二人は離れてしまってぶらぶら歩く船の甲板も旭が昇る前の朝焼けもみんなつまらなく色褪せてしまう。いやだよ、トロイさん。
「キキョウ。引っ張らなければ……私は一向に構わない」
「…はい」
「だから、こうやって」
「…トロイさん」
 節くれだった指先がするりとキキョウの親指を引いた。音もなく、キキョウの左手はトロイのたなごころに収まった。
 引っ張っちゃ駄目。だったらこの手をどう握り返していいのかわからない。キキョウはおろおろとうろたえて、唇はぴったり閉ざされてしまう。こうなるともう駄目なのだ。何をすべきか何を控えるべきか、すべて指示してもらわなければキキョウは呼吸もうまくできない。
「……すまない。できるだけ正しく発言しよう。あまり腕を引っ張られるとどうにも歩きにくくなる。すると立ち止まるしかなく、せっかく楽しんでいる散歩が途切れてしまうかもしれない。分かるか?」
「…うん」
 トロイはいつもキキョウに丁寧すぎる説明をしてくれる。トロイ自身の性質だ。無愛想ゆえ言葉を尽くさねばならぬ時が多かったのだ。他者には疎ましがられるこの性質こそ、理解力の乏しいキキョウに対して程よく馬が合う重要な要素となっている。
「従って、一つ案がある」
「…なに?」
「互いの手のひらをかたく繋ごう。それなら不都合ないだろう?」
「…手」
「強く握ってもいい。私の指が折れない程度なら、な」
 トロイがにこやかに微笑した。
 彼の無表情以外の表情はめったに外へ出ることがない。特に今はキキョウだけのもの。もちろんキキョウにそれをしかと知る術はなく、何とか笑みを返したものの、キキョウは力の込め具合をつかみあぐねて首を傾げる。
「…いたい?」
「いや」
「…もっと、いい?」
「今の倍以上でも問題はない」
「…うん」
 腕へ凭れるのより距離は遠い。でも軍服という隔てがないからトロイの体温を多く感じる。それに彼の言った通り歩きやすくて、離れにくくて、キキョウだけじゃなく、トロイもキキョウを掴んでくれる。
 キキョウの手にも、トロイの香りが移るだろうか。くんとトロイの匂いを吸い込む。いい匂い。
「……笑うと」
「…?」
「いや、大したことではない」
「…ん、と」
「案ずるな。不快という意味では決してない。キキョウが笑うと……私は、頗る快く思う」
「…うん」
 難しい言い回しから、とにかく笑った方がいいらしいと珍しく的を外さずに読んで、キキョウは朝焼けへ視線を向けた。
 笑おうと意識しなくたって、トロイがそばにいれば勝手に顔がゆるんでしまう。楽しいとは違うけど笑いたくなるのは何でだろう。わかんない。考えると頭がこんがらがるからやめちゃえ。
 きれいだな。朝焼けもトロイさんも。
「綺麗だな」
「…きれい」
 嬉しいな。うきうきするな。……幸せ、なのかな。
 船員たちが起きてくるまでの、それは短い忍びあい。








実はこのカプが一番少女漫画チックに普通の恋愛してるんですよ…。
お互いすごく純粋なんですよね。

説明しなきゃ伝わらないという力不足を露呈しますが、綺麗なのは朝焼けよりもキキョウなわけで、「あい」は逢いで愛でIということでひとつよろしくお願いします。
もっと腕を磨きたい!!

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