「五感」というチョコが好きです。
…とかそういう問題じゃないのよ。
せっかくの連休なのにひとっつも書きたい話に手がつけられなくて、主に私のモチベがってことなんですが、2日間で結局1行も進んでません。
だめだこりゃー。
ぼつんはヘタレだー(やっぱソコか)
気分転換にパラレル。
「どっちの方が手が大きいか、なんて。今さらだろう?」
「それでもいいの」
わずか呆れた音色を含ますアスフェルへ、ルックは頑固な翡翠で応ず。すみずみまで伸ばしきった手のひらをアスフェルの背に押し付ける、その不可思議な言動へどうも引っかかるのは嗅覚だ。
(相変わらず何を考えているのやら、だな……)
今は深く追及すまい。瞬くついでにそう念じ、ベッドへ腰掛けるアスフェルは、一糸纏わぬルックの肢体をシーツからやにわに剥ぎ取るや膝の上へ跨らせた。
向かい合う姿勢にルックが頬をほてらせる。プライドのため形だけでも抗ってみせる足は、平泳ぎのように一度だけシーツへ波を描いて停止した。ことん、と床へ落ちる、飲みかけのペットボトルはただのミネラルウォーターだ。音はほとんど絨毯に吸収されてしまって、水の揺れる音だけが先の情事に重なる響きで耳に残る。
アスフェルは片腕でルックの脇から背までを支えた。
「何でわざわざこの体勢」
「ほら、手を合わせるんだろう? ルックがあと何センチで俺の大きさへ追いつくか」
軽く鼻先に口付けながら、ルックの強がり、かざす右手へと都合よく逸らす。ルックは再度自らの左手を思い切り開くと、まずはじっくり目測をした。
「……ねぇ、爪も入れてだよ」
かわいい。こみあげる笑みのまま、アスフェルはルックの背中をぽんぽんと叩く。
「了解。比べ終わった後で切ろうな。前に俺が切って以来だろう、だいぶ伸びているから」
「別に自分で切れないわけじゃないんだけど」
「面倒だ、でいいんじゃないか?」
「あんたに切らせたがってるとか思わないでよね。師匠の爪切りは形が合わないの」
「はいはい」
いちいち言うことが愛らしすぎる。ゆえに、ぴんと広げたルックの手のひらをつい柔らかく握りこんでしまう。
「ちょっとあんた、比べる気、ないの?」
「そもそも俺はつき合わされている側だけれど」
「屁理屈言わない」
「――俺が?」
あまりの屁理屈、勝手な言い分に、堪えきれずアスフェルは笑った。
我侭ではなく天邪鬼なのだ。素直になれないから横柄な態度を取り、毒舌で煙に巻こうと努力する。アスフェルに看破されることを承知の上で、だ。
薔薇の花びらを外側から一枚ずつ剥いてゆくのに似た駆け引き、いや戯言が、よりルックをかわいらしく見せている。こんな他愛ないことでアスフェルはぎゅうっと満たされる。
「何度も言っているけれど。俺は本当に趣味が悪いと今もしっかり痛感したよ」
「そこまで僕を良く思ってないんなら」
「ルック。いくら冗談であれ、続きは口が裂けても言うな。聞きたくない」
「……ッ……じゃあ、言わない」
「ありがとう」
今宵はやけにアスフェルへ愛情表現を示したい様子。ルックは目を伏せ、アスフェルの咽喉元へこつりと額を乗せてくる。
握ったままの右手越しにルックが指を絡めたがるのを察知したなら、背を撫で、頭を抱き寄せて。耳朶、首筋、頬、そして目尻に、てんてんと場所を移動させながら愛しいルックの肌を啄ばむ。
逃げないルックが、それだけで、いつもよりアスフェルへ触れてほしいのだと訴えてくる。
(だから手を合わせたがったのか)
よくよく素直じゃない。先の行為に物足りなかったのか、あるいは一次的な欲求の介さない接触を求めているのか、――おそらく後者が正しいのだろう。単に皮膚を合わせたいのだ。ルックにはたまにそうしたがる時がある。
淡白すぎるルックの嗜好はルックの五感が通常よりやや鈍いことに起因する。つまり、感覚神経を補うため、できるだけダイレクトに感じたがるのだ。五感で唯一鋭い視覚も実は乱視のせいでそうずば抜けて見えてはいない。
これらは最近になってアスフェルがようやく悟ったもので、ルックは自分の五感がいくらか弱いことをあまり認識していないようだ。他者に頓着しないのも相手の存在を直接的に感じ取れないからかもしれない。
では、アスフェルに触れたがるのは、アスフェルを深く刻み込みたいから?
そうだとしたら……この上なく幸せだ。
髪を梳き、頬を包んで、目につく端から唇を落とす。ふっと小さく口角を上げるルック。躊躇いがちにあいた右腕がアスフェルの背へ回される。
「手、やっぱ、あんたの方がおっきいね……」
「きちんと比べようか?」
「いい。だって、僕の手はすっぽりあんたに覆われてるもん」
拗ねた口調の割に優しく、ルックはアスフェルの手を握る。
「……ルック」
「なに」
「もうちょっと言葉を選びなさい」
「なんで」
「何ででも」
すっぽりなんて耳元で囁かれて、かすかに甘えるルックの指先、これで何ともならなかったらうら若き高校生として失格だろう。膝上へ居心地よく落ち着いてくれているルックには申し訳ないが、この体勢がどれほどアスフェルにさっきの快楽を思い出させるか、ルックにはどう説明したところで共感など欠片も持ってもらえまい。
仕方がないからその代わり。好き、と、たったひとこと呟いた。そして思いきり抱きしめる。
小さな応えは、だいぶ後になって返った。
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