こっそり白状。
字を書く精神的余裕が壊滅的にこそげとられた1週間でした。
そんなときに元気をくれるのはやはりよん(笑)
坊やルックと違って、私にはよんがいちばん等身大でリラックスして向き合える相手みたいです。
ほら、坊ルクと私はどっちかっつうとお互い1回きりの真剣勝負ですからね!
全力投球しなきゃ2人に容赦なくシメられます(笑)
タイトルは「ささめすな」という造語でお願いします。
キキョウは砂浜をひとりで歩いた。
くるぶしまであるブーツにも砂がどんどん入ってくるので、洗い流そうと波打ち際へ行ってみる。靴が濡れる。靴を脱ぐ。靴下も。両手に一組ずつぶらさげ持って素足を海水にくぐらせる。
指の隙間にさらさらと入る細かい砂が楽しくて、わざと爪先をざくざく砂浜へ突っ込んだ。ゆるい波が足の甲を浚い、去り際に砂を乗せてゆく。磯の臭気はなぜかキキョウへ深い安堵をもたらしてくれる。ぽた、ぽた、靴下から水滴の垂れるのが邪魔に思えて、キキョウは靴下を、ついでに靴も、寄せる波間へぽたりと落とし捨ててしまった。どうせ後で探す羽目になるだろうけど、今はとにかく両手を天へかざしたい。
うんと背を伸ばす。朝日が手のひらのふちを赤く明らめる。朱色、黄色だろうか。太陽の色。またはキキョウの肉体の色。眩しさに目を閉じる。波の音が耳を揺さぶる。懐かしい歌はふるさとの海がさえずる奏、そのものである。
キキョウは薄々己が故郷を察してもいた。海のさなかに鎮座する島、オベル王国がそれであろう。だが帰りたいとは思わない。帰り方もよく分からない。キキョウが生まれたのはやはり海であって、目を凝らしてもまだ届かない海底の青い暗闇や腐った海草のまとわりつく浅瀬や白い水飛沫、七色に透ける海水、水温の差が引き起こす壮大な碧の絵画的風景とそこへにつかわしく浮かぶ、船。世界をひとつに育む海こそキキョウの生まれ故郷なのだ。
重なる面影は遠いあのひとか。あるいはかつての同僚や仲間、長い旅路で一夜二夜のみすれ違ってきた数多の人々かもしれぬ。記憶は鮮明に残されており、だが曖昧に溶け合わさって舞い落ちる。
確固たるものは、ただ、己の生命のみなのだ。飯を食って砂浜を歩くこの時間だけが今のキキョウに在るすべて。それはキキョウだけでない。ひとは皆同じ。大事なものもいらないものも、キキョウにはもはやどうすることもできないでいる。それは存在としてごく表層でしかないからだ。
キキョウは、孤独を知っている。
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