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夕 凪 大 地

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「ハイジャンプ」

うちの坊って本当にヘタレなんだろうか。(笑)

考察の結果が以下になります。
すいません自明でした!


ちなみに噂の出所は最近で言うと某郷愁さまの某ユノハさまですね(言ってるし)
うちの坊なんかどんどん名前出していただいて問題ないですよ、むしろ出してやってくださるとあの変態いっちょまえに喜んでますよ。
何か、あの子ひとに構われるの好きみたい(笑)

あ、予定は予定であって同時に未確定であることをどうぞご了承くださげふんげふん
be going toじゃなくてwillなんだよという先回りな言い訳


つうかキリリク書くつもりがこんなん書いてたどーゆーことぉぉぉー!?




 ふいにアスフェルが、真面目そうな眼を見せた。
「なあ、シーナ」
「……ンだよ」
 さすがに身構える。いつもの偉そうな態度や腹黒い口調、それでいて威厳を湛えた手足、常人離れした端整な微笑は決して見慣れられなくも、その魅惑的な言動からアスフェルがどういう心境でいるのかをある程度まで察せるくらいには付き合いの長いシーナである。が、十三年に及ぶ対アスフェル迎撃経験のうち、こうまで真剣な目でアスフェルが先制したことなど今まで滅多になかったのだ。シーナは思わずごくりと唾を飲み込んだ。
 ところがアスフェルは――こういう顔でこういうことを言うらしい。
「あのな、俺はヘタレか?」
「……」
「巷で噂が流れているようだ。中学生の噂話とはいえ少々聞き捨てならないだろう?」
「……」
「正直に言おう。俺は他の誰にどう思われても構わない。君と、あと一人にだけは、耐え難いんだ」
「……」
 シーナは声を失っている。無論、馬鹿馬鹿しすぎて、である。
 あまりの阿呆らしさに胡乱なシーナを咎めたものか、アスフェルは束の間優美な唇を尖らせた。
「シーナにしては精彩のない。もちろん君ともう一名とで理由は大層異なるよ」
 アスフェルが真剣な眼差しを崩さぬままで渋面のシーナをひたと見つめる。この男、冗談を言うときにこういう顔をするらしい。または付き合いの長いシーナにさえまだ明かしていない秀麗な諸表情のうちの一つをこれ見よがしに晒してみせただけなのだろうか。少しでもシーナに扱い慣れたと思わせたくない……嗚呼、不本意ながら納得はいく。
 シーナはふんと息を吐いた。
 この高貴な坊ちゃんがシーナに対して耐え難いと感ずる根拠は、互いにとって情けないことに、あっさり推測が立ってしまう。つまり、シーナごときに軽んじられるなどもっての他というわけだ。そしてもう一名、アスフェルが別格を匂わす相手は、シーナの勘が外れていなければあの少年。今は保健室にいる少年だ。
「お前って、意外と純情だよな」
「……どこが」
 シーナらしい軽薄な揶揄へ、アスフェルは口をへの字に曲げた。そんな仕草でも何ら造作の美を損なうことがない。
「どういう論点からその冴えないコメントが導き出されたんだ?」
「だーかーらーよぅ、要するに、あのつんけんした冷たい毒舌家にはちっとでも良く見られたいんだろ」
「……ッ」
「ん? 違うかアスフェル」
「……」
「はぁ? 何お前、無自覚?」
「……いや。そう、だな……シーナの言う通り、かもしれない」
 アスフェルがついと目を伏せた。
 ここが校庭でなく、アスフェルがジャージ姿でなかったら、薔薇の咲き誇る花園へ迷い込んだ一羽の黒蝶と見えたろう。実際には花弁の代わりにグラウンドの乾いた砂が埃っぽく舞っており、ユーゲントシュティール風曲線で彫刻されたアーチの代わりに走り高跳びのスタンドとバーが門戸を構えて待っている。
 それにしても、シーナのみならず、周囲で同じようにバーを囲んでいた生徒たちがこぞって蝶の幻覚を見たのは已むを得まい。跳び終えたばかりのシーナとアスフェルはクラスメイトが挑戦するのをグラウンドに座り込んで見守っており、そうやって地面に片膝を立てて座っていてもアスフェルはやはり様になるのだ。
 照れたような、虚を衝かれたような、これもまた珍しい雰囲気をうなじ辺りへほのかにまとい、アスフェルは下唇を舌で舐めて湿らせる。空さえ暫時陽を隠す。
 こいつ、こういうとこが凶悪犯的なんだよな。
 まだ耐性のあるシーナは幼なじみの左肩を軽く小突いて止めさせた。
「で、ヘタレがどうのって?」
 話題を当初のものに戻してやる。
「……ああ、そのことだ」
 アスフェルは、先よりうんと柔らかな表情で顔を上げた。
「俺はな、シーナ。……実は損な性格をしているのだろうか」
「いやいや、っていうか間違いなくそうなんじゃね? お前はやろうと思えばもそっと器用に生きられんだろ」
「そうか? 俺は何事にも全力を以ってしているつもりだけれど」
「分かってねぇなー。ちゃちいことにもいちいち全力で当たるのがお前の不器用なとこなんだっつの」
「ああ。シーナにしては的を射た……」
 アスフェルはさらりと黒髪を揺らして首肯する。
 この十三年間、シーナがずっと気になっていたことだった。アスフェルは嘘を吐かないし、面倒ごとを後回しにもしない。いくらでも容易な対処法を考案することができるのにも関わらず、アスフェルはそういった保身に悉く疎いのだ。もちろん背後にはアスフェルならせこい計略に頓着する必要性がないという現実もあるのだろう。にしてもやり方がいちいち正しすぎている。
 最も背の低い同級生が高いバーに挑戦し終えるまで、シーナとアスフェルはしばし会話を中断した。
 三回目、ラストチャンス。小説なら奇跡が起こる場面だろうに。落ちるバーを最後まで見届けず、シーナは内心けっこう本気で励ましていたらしいアスフェルに右肘をこつんと触れさせる。
「ま、それがお前らしさなんだろうよ」
 アスフェルは、きょとんとシーナを覗き込んだ。シーナは咄嗟に目を逸らす。続ける言葉が多少どもった。
「あああと慎重すぎんのが良くねぇなお前は」
「慎重?」
「言い換えればヘ、……ッあ!」
 すとんと符合のはまる感触。シーナは勢いよく立ち上がってしまった。
「……なるほど」
「まー、そーゆーこったなー、ははは」
「理解したよ」
 憮然とアスフェルがシーナを見上げる。嘆息しつつ、前髪を鬱陶しそうに掻きあげてがりがり頭皮を引っかいたのは、アスフェルのたまに示す子供っぽい癖である。
「不貞腐れんなって!」
「慎重論の上に小心者だと言いたいんだろう。まったく否定のしようがない」
「のクセに妙なとこで大胆だけどな」
「五月蝿い」
 シーナが笑えば、アスフェルもやや顔をほころばせた。ようやく既知の不敵な表情へ戻ったアスフェルが牡鹿のようなしなやかさですっと立つ。
 糞、飛びたい。そう乱暴に呟いたのが先生にまで聞こえたらしい。
「おい、バーもっと上げてやるよ!」
 青いジャージの胡散臭い体育教師がアスフェルを人差し指で手招いた。自分を格好いいと信じ込んでいる、と男子生徒にはいたく評判が悪いはずだが、憎めない薄幸さが逆に人気を得てもいる。今年二十六歳になるフリックだ。
 だん、と地面を力強く蹴る音がシーナの腹へ直に響いた。アスフェルはわざと一歩目を音立てたのだ。そうやって周囲の視線を引きつけておき、滑らかな助走、理想的な体勢で、故意にバーの右寄りを跳び越える。
 体育教師の鉢巻頭と同じ高さで翻る四肢。
 シーナは真っ先に右の親指をがつんと立てた。


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