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夕 凪 大 地

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「にゃんにゃんこ」

…疲れてる、うん。


疲れた人と萌えを充電したい人のために捧げるにゃんルック。

…大丈夫か、私。
つか坊も。(←ヘタレ全開)




 ルックに耳が、ついていた。
「あふ、眠……。あ、おはよ、アスフェル」
 なのに暢気に欠伸をしつつ目を擦る。あわせて耳が、ぴょん、と横薙ぎに動いた。そしてすぐまた平たく伏せる。ふるると震えてまた伏せる。
 耳はこめかみの斜め上に左右一対生えていて、先の尖った、裏側が柔らかい毛に覆われた、表は血管の透ける、非常に動物的な形状である。いわゆる、猫の耳。ルックの髪と同じ金茶色の耳はお日さまの光にきらきらと淡く乱反射して、今は力なく垂れている。眠いからだろう。
 ――って、観察している場合か、俺!
 恋人に猫耳が生えたのだ。朝、突然、藪から棒に。無論心当たりなど何もない。むしろ潔白だから恐ろしい。ちゃんと血の通った本物の、きっと温かい、猫耳がいきなり出てくるか、普通!?
 ルックは朝にシャワーをすることが多く、それは単に夜風呂場へ向かうのが面倒くさいからというだけなのだが、よたよたっとした頼りない足取りで、半眼のまま、ウッドチェストから白いタオルをのろのろ引っ張り出している。落ち着いている。冷静すぎる。俺ときたらさっきから呻きのひとつも出ないくらいなのに。
 棚の奥に端が挟まってなかなかタオルが抜けないものか、猫耳の生えたルックは少し背伸びした。
 その瞬間、ひょい、と、目の前を何か茶色い毛並みの影が横切る。ぱたんと一振り、次いで自然に垂らされる、
 ――尻尾!? ルックに!?
「取れない。……もう、今日は、シャワーいらない」
「――み」
「じゃああと五分寝てもいいよね」
「――し」
 開けた棚はタオルが邪魔をしていよいよ開けるどころか閉まらなくさえなったらしい。棚をチェストからまるごと引き抜いて挟まったタオルを取り除こうとは朝のルックがするはずもない。つまり難なく諦めて、後片付けを全部俺に押し付けるつもりで、ルックはくるんと踵を返す。尻尾が逆向きにくるんと揺れる。
「……あんた、どしたの?」
 完全に二度寝を決めたルックが、あどけなく、三日月に細められた瞳孔をきゅんと大きく瞬きさせて。ふと、今気づいたとでもいうように、足元へくるり巻かれている生えたての尻尾へ目を遣って。
 ――遣ったのに!
「朝っぱらから変な顔して……僕、寝るから、十五分経ったら起こしてね」
 いつの間にか三倍に増やされた睡眠時間、そっけない口調と裏腹に、所在なさそうな茶色の尻尾が、俺の手首へ一度だけ、愛おしく絡みついてすいと離れた。
「おやすみ、アスフェル」
 間違いなく興奮させられたに決まってる! だが俺の高揚なんてルックはとんとお構いなしで、血管の粟立つような感触をしつこくしつこく後に残して。滑らかな毛先、奔放な尻尾と、彼のおやすみに呼応して素早く振られた猫の耳。
「――ルックに、いったい何が……あったっていうんだ……ッ」
 耳をそよそよ揺らしつつ、寝室へ再びひきこもるルックを、追いかけられたのは残念ながら俺の執拗な目線及び切ない嘆息だけだった。








続きません、多分(笑)

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