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夕 凪 大 地

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「玉響のもみじ」

推敲どころかアーティストで言う1曲1発録りみたいな状況なんですけど…!
ギターからドラムから全部いっしょくたにいっぺんに録っちゃってちょっと待って聞きなおさないでCDにするのみたいな!

今は時間切れなので、後ほどちょこちょこ修正すると思います。
ご勘弁ください。

 →約12時間後、修正完了。ご迷惑をおかけしました。


一応パラレル、ルックとジュッポです。




 ルックが、ふいと振り返る。
「どした?」
「……別に」
 ジュッポが聞いてももちろん答えるはずがなく、すげない一言でルックは会話を切り捨てた。その一瞬で密かに目線を伏せている。だが次の瞬間にはもう決然と前を向いていて、わずか止めた後足もすでに先と変わらず動き出す。まさに取りつく島もない。
 弱みを人に見せたがらないだけでなく、ルックは、他者と少しでも馴れ合うことが嫌いなのだ。
「そーゆーの、良くねェと思うけどな」
 ジュッポは思わず呟いていた。すると途端にルックが睨み上げてくる。
「あんたに関係ないね」
 ぞ、と鳥肌が立つほど強い。
 眼差しが相手を攻撃し、不快を抱かせ、無闇に敵を増やすということ、彼にとっては配慮する価値さえないものか。いい加減慣れてしまったジュッポは肩を竦めて場を和ませる。和むのは自分の怯えさせられた心であってルックのそれではないのだが。
 あるいは故意であるとも思う。銀杏の並木にそぐわない足取りも、秋晴れの空が霞むような鋭さも。ルックはわざと世界を避けているように思われるのだ。つまり他人にはルックと同等である価値がない。だから近寄ってほしくない。踏み込んでほしくない。至極排他的な観念をそうと他人へ説明するのも無駄である。そんな内容を、態度が告げているようなのだ。
「あのさルック、そーゆーのってどーゆーのか分かってっか?」
「あんたの曖昧さは虫が好かない」
「だからそーゆー態度がだな、」
 言いかけてジュッポは口をナの字に開けたまま声を止めざるを得なかった。ルックが再びちらりと背後を窺ったのだ。ジュッポはルックを見下ろした。隣に並ぶとルックは物差し一本分ほど低い。
 ルックは何事もなかった様子で再び前に向き直る。だが後ろ髪引かれる顔をしている。不安と安堵と愛惜が奇妙に融合して解けなくなった。起き抜けに凄惨なニュースをテレビで見ながら温かい油揚げの味噌汁をすする。そんな顔だ。生半可な感情でこんな雰囲気は出ない。
「……別に、何もないんだけど、ね」
 我知らず、ジュッポは相当奇怪な顔つきをしてしまっていたのだろう。珍しくルックが言い訳めいたことをジュッポの耳に転がしてくる。
「何もないんだけど。何か」
 言いにくそうにルックはちょっと眉を顰める。睫毛も金茶色。また瞳を軽く伏せ、何かを探しあぐねている。
「……呼ばれた……気がして」
 ルックはそうっと口にした。
 これをジュッポは今でもうまく言葉にできない。ぱらりと何かが落ちたようでいて内側から何かが透けて見えた錯覚もあり、どちらにせよジュッポはただならぬ思いをしたのであった。今まで自分が見てきたもの、ルックに対する評価だけでなく、生まれてから今までに見てきたもの感じてきたもの、体験したもの、すべてが単なるジュッポの思い込みに過ぎなかったと見えたのだ。世界はジュッポの理解が及ばないものだった。そんな不具合感がした。しかし嫌な気分ではなかった。
 手がかりを求め、ジュッポはルックを手繰り寄せる。
「誰に」
「あいつ」
「って誰だよ」
「あんたに関係ないね」
 ところが目玉を擦るほどの玉響、ルックはもういつも通りの憎たらしい一人の同僚へ戻っていた。剥き出しで持つ封筒をぱさりと一度小さく振って、中の発注書と仕事へ意識を向けさせる。これ以上余計なことを言うと承知しないよ、と見えざる声がひどく雄弁にジュッポの口を牽制した。
 ルックは、何を聞いたのだろう。
 舌打ちを堪え、ジュッポは一人振り返ってみる。やはり後ろには何もない。誰の声も聞こえない。世界はジュッポの日常へ戻る。ルックは小生意気な後輩のまま。
 空き地に挟まれた一軒の民家に、色づいた紅葉のひとひら舞い落ちるのが、鮮明に見えたきりだった。


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