14日に書いたから許して…。
坊4の日を祝うというよりミルキーを書きたかっただけの小小話です。
パラレル、久しぶりに高校生。
アスフェルが紅茶を淹れている間に、二人はすっかり意気投合したようだった。
部活の二年後輩であるリツカを家へ招いたら、年上の弟分であるキキョウが玄関でぼんやり所在なさげに佇んでいたのだ。ちなみにいつもならキキョウをアスフェルの部屋へ上げて飲み物を部屋まで運んでおいてくれるグレミオは買い物に出てしまっている。来客の予定はなかったのだから仕方ない。
三人分の紅茶を盆に乗せ、片手で支えて、アスフェルは自室のドアを左手で器用に開けようとした。
「…あ、あの、ミルキー」
「えっ! 食べていいの? ありがとキキョウ!!」
「…うん」
珍しいことに、キキョウがウエストポーチから取り出した自分の菓子を人へ勧めている様子。自ら何か行動を起こすことが稀な弟分である。リツカのことをよほど気に入りでもしたものか。きっちり閉まっていないドアの隙間から漏れ聞こえる和んだ声に、アスフェルはなぜか、少し躊躇ってしまった。
「ねぇねぇペコちゃん十こってもう見つかった?」
「…?」
「あのね、このペコちゃんの絵がね、ミルキーくるんでる紙があるでしょ、あの一枚の中に十こあったらちょうラッキーの合図なんだよ! あ、でも、こういうのとか、こういうのはなしね」
「…うん」
「ぼくこれよく当たるんだよ。待ってキキョウ、ぼくがキキョウの選んだげるね」
「…う、うんっ」
がさ、と袋を漁る音。キキョウがいつになく浮かれた声を出している。これに決めた、と、ほどなくリツカの天真爛漫な叫声が聞こえ、キキョウが恐る恐るリツカの選んだ飴を受け取り、紙を開く気配、二人して指差し図柄を数える声がした。
続きは外で聞く間でもない。
「十個、あったろう?」
アスフェルはノックの代わりに呼びかけた。
リツカは異常なほど勘が冴えている。そしてくじ運がべらぼうに強い。おつむの方はからきしだから、剛運と体力で生きているようなものである。すなわち野性的なのだ。従順と身体そのもので生きているキキョウにはリツカの存在がひどく新鮮に映るだろう。良いことである。あの子はもっといろいろな世界に目を向けるべきだと思うから。
やった、とリツカの弾んだ勝ち鬨を背景にして、キキョウがドアを勢いよく開けてくれた。
「…アス! ぺこちゃん!」
右頬が膨らんでいる。とりあえず菓子を口へ放り込んでおいてロクに味わっていないのだろう。キキョウにしては珍しいことだ。
「見てもいいか?」
「…うん、十こ、ぺこちゃん!」
リツカへ盆を目で指し示すと、聡いリツカは察しよくアスフェルの手から盆を取り上げた。テーブルへ置く。置く寸前、つまみ食いのつもりか、ひょいと一口先に飲むのは見なかった振りをしておこう。礼儀作法はリツカに期待するだけ無駄なのだ。
キキョウは待ちきれず数え出す。手のひらに包み紙を広げて、アスフェルに見えやすいようその手を前に突き出して。
「…いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、しち、はち、くう、」
「確かに、十個だな」
「…うん」
「良かったな」
「…うん!」
さっきまでニット帽を被っていたせいでぺしゃんこになっているキキョウの髪を、てっぺんをほぐすようにわさわさ撫でた。すぐに静電気が立ってしまう。毛がふわふわに柔らかいところはアスフェルの好きな感触と似ている。
幼子よりも率直にキキョウが目を細め、また撫でてほしいのだろう、もう一度キャクラターの図柄を今度は手振りで数え始めた。キキョウのことだから幸運のおまじないや占いの類だという曖昧な解釈はせず、本当に何か起こると信じているのかもしれない。または、単純に、楽しい遊びの一種と捉えているのかも。
「…あ」
キキョウが、ふと思いついたように顔を上げる。
「どうした? キキョウ」
「…はんぶんこ」
「――ッえええぇぇえキキョウ!? アスフェルさんルックは!!」
強引に首筋を引き寄せられて、幸せは今起こったと言わんばかり、満面の笑みでころんと口移しされた甘ったるいミルク味。
ぺろ、と離れざま唇を舐められたのは、たとえリツカにどう見えたとしても、キキョウなりの子供っぽい握手的行為の一環であった。
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