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夕 凪 大 地

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「とこしえの翠嵐」

何とか、これくらいの短い小小話なら書ける程度には回復しました。
でもこれ書いてけっこういっぱいいっぱいでしたorz

今年のクリスマスは出歩くほど元気じゃないので家に引きこもって妄想します(笑)
妄想する体力が戻ってきただけでも私的には大感激なんだよー。
あとは形にするだけの健康状態が戻ってきたら言うことないんですけども。

いっぱい書きたいお話がある!



さて今回のタイトルについて。
実はパラレル小小話「玉響のもみじ」と対にするつもりで、玉響を上げた直後から坊とクライブの異色コンビパラレル(笑)を練っていたときのものでございます。
タイトルだけが最初にできてて、というのはすごく珍しいパターンなんですが、このタイトルに合うパラレル坊なんかいいなあと思ってたのよ。

…でもできあがったのはパラレルでさえなかった。




 ざっくり、踏みしめた雪は驚くほど柔らかく、だが足元ですぐきしきしと固まった。
「壮観。だな……」
 独りごちる。呟きは雪に飲み込まれ、耳の痛い静寂、とうに感覚の消えた爪先、歩き通しで熱くなった体から吐く息は雪のように真っ白だ。
 アスフェルは雪国へ来ていた。
 旧ハイランドが皇都ルルノイエよりさらに北、森を分け入り奥へ進むほど、雪が地面を覆いつくして視界を単色に染め上げる。雪から飛び出るように生える針葉樹は枝々へ雪を積もらせており、時折目に付く枯れ草の先や野兎の足跡、雪の重さに耐えかねて折れた若木のほかには雪しか広がるものがない。
 初めて目にする光景だった。
 アスフェルが独り諸国を放浪するようになってもう十余年が経過している。今まで敢えて避けていたハイランド地域へ足を向けたのは、ついにここを訪れざるを得なくなったからだった。ハイランドを北上すれば不滅の神官が治める大国、ハルモニア。右手の紋章に浅からぬ縁がある。
 旧ハイランド皇国へは今までに何度も立ち寄っている。つい最近などふとしたことからハイイースト動乱へ関わりを持ち、おかげでハルモニアとの国境付近までなら地理に明るくなっている。
 針葉樹林に乗っかる雪の、どさりと落ちる音がした。
「……会いたいな。早く」
 極力声へ出すようにしている。この旅の最大目的、つまり願い。声へ出せば叶うなどという陳腐な俗諺を信じているからではなくて、アスフェルは、それが確かに第一項目そのものであることを確認したいだけなのだ。少しでも曇っていないか。強烈な渇望を忘れていないか。十余年の歳月はアスフェルをも不安にさせている。だから唱える。声に出す。
「会えたら、懐かしいね、だなんて言わせない。拒否を挟む間も与えない。一目で俺を必要不可欠だと思わせてやる」
 金茶の髪が恋しかった。颯爽と渡る風、凛とした背筋、何もかも。冷淡な態度も毒舌や皮肉も意外に向こう見ずな一面も、根は優しいくせに発露の仕方を知らない不器用さ、誇りゆえの厳しさと気高さと。
 アスフェルは拳で目の前を掴んだ。
「ああ、俺の方かも知れないな。懐かしいだなんて言えやしないよ。きっと、必ず、一目で離れられなくなる」
 空を仰いだ。雪の丘陵に焦茶色の幹、見上げれば雪は深い緑を交差させ、その先には白く白く、冷たげに晴れた、太陽。
 この場を彩らない色を探した。翡翠色の瞳を思った。矢のように鮮烈な翡翠、放つ眼差しを、雪に反射し閃く太陽へ仮託した。
 アスフェルの旅は、まだ続く。


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