もっとエロくなるはずだったんだけどなぁ。
残念なことに、微エロにすらなってくれませんでした。
坊+よん、ノットエロ。
(エロを書くつもりだったのかと問われると)
(否定できない、つうかむしろその通りです)
てへっ! ←…
キキョウがにじり寄ってくる。
何をしたいかは分かっていたが、アスフェルはぐいとキキョウの肩を押しのけた。キキョウが途端に顔を曇らせる。瞳の水分含有量が多くなる。
「…アス」
「何度も言うがな。言いたいことは口で言いなさい」
「…シようよ」
「それも何度も繰り返すけれど、確かめたいなら言葉と目視で確かめなさい」
「…うぇ」
「すぐに泣かない」
「…はい、っく」
「――我慢もしない」
「…うぇぇぇぇぇん……」
アスフェルはぴしゃりとそっぽを向いた。
出会って数日、いつもキキョウはこの調子である。今まで何と約百五十年間、同じ空間に一定時間以上連れ添っている相手とそういう関係にならなかったことがとんとなかったらしいのだ。だから不安になっている。アスフェルの思惑が理解できないためである。
哀れだ。言葉を使いこなせずに、体の繋がりを心的な繋がりに置き換えて満足してしまうキキョウが。無防備に開かれすぎた心と体でどれほど傷ついてきたかしれない。なのに生き方を変えられない。周囲に諭す人間もいない。いても、自分より、先に死ぬ。
「あのな、キキョウ」
涙に暮れる幼いキキョウへアスフェルはそっと呼びかけた。
「何でそんなにシたいのか、ちゃんと考えたことがあるか?」
「…ひっく、えっと、たぶん、ない」
「考えなさい。果たして本当に必要なことなのかどうか」
「…はい」
キキョウは小さく背中を丸めて俯いた。機械的にイエスの返事をおこなうときの答え方だ。
きっと、アスフェルにひどく叱られたと感じてしまっているのだろう。キキョウにとって拒まれた事実の理由は一つしか存在しないらしいのだ。人間には個性の数だけ理由も動機もあることを認知できていない。それは、裏返せば、自身の感情すらまともに捉えられていないということである。
今からでも遅くない。キキョウは今こそ、触覚によらぬコミュニケーション力を養わなければならない。
それにしてもここが宿屋でなくて良かった、とアスフェルは頭の隅に思った。港町を出て一晩歩き、見つけたあばら家へ勝手に上がりこんでいる。でなければ宿の亭主や他の客らに囃し立てられているところだ。遠めには単なる痴話喧嘩としか映らないだろうから。――そもそも、男同士の痴話喧嘩、に見えてしまうだろうことが恐ろしい。
アスフェルはキキョウへ向き合った。
「キキョウ。俺の目を見て考えるといい」
「…うん」
「俺は怒っているか? あるいは、キキョウを嫌っているように見えるか?」
「…わかんない……わかんない」
「俺が何を考えているか、自分に置き換えて考えてごらん」
「…はい、わ、わかんない……」
口中でもごもご呟くと、キキョウは両手で頭を抱えこんでしまう。思考放棄の寸前だ。
これでよく天魁星が務まったものである。シルバーバーグに連なるという軍師がよほどうまく操ったものか。にしてもリーダーとして最低限の求心力すら具えていないようだから、結局、百五十年前からキキョウはずっと肉体で人心を自らに繋げていたものだろう。
哀れだ。アスフェルは今日だけでも何度目かになる同情をした。まずは地道に発言の機会そのものを増やしてやるより他にない。
「もう寝ようか、キキョウ。できれば明日のうちに次の町へ入りたいからね」
「…うん」
アスフェルは無造作に胡坐を崩し、片膝を立ててそこへ肘、肘を支えに頬杖を突いた。キキョウはアスフェルを注視している。何やらきょとんと考えている。
「…ねる」
復唱する。と、キキョウはおもむろに上着を脱ぎ捨てた。上目使いで唇を突き出す。背中を弓なりにしならせる。
「…アス」
さすがのアスフェルといえど、寸時、呆気にとられたのは止むを得まい。
「――『寝る』は睡眠の意だ!」
「…?」
「朝までぐっすり就寝することがこの語の一般的な解釈。キキョウが思うのは比喩的な意味」
「…えっと」
「いいから、寝ろ」
あばら家の土間へ堆く積まれていたぼろ布のうち布団代わりに使えそうだと手元へ置いていたものを、アスフェルはぐしゃりとキキョウの頭へ押しつけた。そのまま首根っこを押し倒す。申し訳程度の囲炉裏へ熾していた火を灰が散っても乱暴に消す。
キキョウは蛙のような姿勢で小さく肩を震わせた。
「寝るよ」
「…うん」
「寝ろ」
「…うん」
何をどうしてそうなったのか。布へ体を埋めたキキョウは、小刻みに肩をくつくつ揺らしてしばらく笑い続けているようだった。
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