坊ルクを書きたくなった。
いやいつもそうだけど今は特に!
パラレルです。
携帯が鳴ったらどきんと鼓動が高くなる。番号を知っているのはアスフェル一人だけだから。
「……」
「もしもし、ルック」
「……うん」
まだ道端で通話することに慣れていない。ルックは携帯を耳から離して立ち止まり、通行の邪魔にならなさそうな場所をきょろきょろと探した。
携帯の画面は通話中の三文字が縦横に動く映像を繰り返し流している。通話中は携帯を耳に当てるのだから、必然的に隠れる画面へ動画は無用じゃなかろうか。そう考えるルックはまだハンズフリーの機能を知らない。無理矢理持たされて数日と経っていないのだ。
「今、何してる?」
手近なショーウインドウへ背中を預け、我に返って携帯を耳に当て直す。と、待ち構えていたようにするり聞こえる笑みを含んだアスフェルの声。まるでこちらが見えているみたいなタイミングだ。
「何って、……何も」
「外だろう?」
「な何で」
「雑踏の音がする」
指摘にぱっと送話口を左手で塞ぐ。どもってしまった。バレただろうか。早々の失態を苦々しく思いつつ、ルックは身体を反転させてショーウインドウへ向き合った。左手を口元に丸く添える。
「で、何の用なの、いきなりかけてきて」
「声を潜めても背後の音量は変わらないと思うけれど」
「五月蝿いよ」
くつくつ、アスフェルが咽喉で笑った。赤らむ頬を手の甲で擦り、ルックは大きく息を吐く。
ルックは街中にいた。日の沈むのが早いから、まだ六時にもなっていないのに連なる店はどこもきらびやかな電飾を点灯させている。クリスマスの余波だろう。
服飾店やカフェ、ファストフードの多い大通りは若者で賑わっていて、同じく若い高校生であるはずのルックはまったく馴染めないでいた。
「ルックが何をしているか、推測しよう」
アスフェルは楽しそうに言う。
「買い物に出かけているんだろう? 寒い日にルックが出歩くなんて珍しい。まだ暖かい店内に入っていないからか、そんなに苛ついて」
「別にイライラしてない」
「買い物の前にコンビニで使い捨てカイロを買った方が良いんじゃないか?」
「……そうする」
ショーウインドウに写る鼻先が寒さで赤くなっている。ルックは、彼にしては素直にアスフェルへ首肯を返し、ダッフルコートの襟元を左手できつく掻き合わせた。
――合わせようとして、首の後ろに写る影。
「ア」
だが先に、両目を毛糸で覆われた。
「ア、スフェル」
「だーれだ、と聞く間も与えてくれないな」
毛糸と思ったものは手袋をしたアスフェルの手だ。ちくちくするような、ふんわり温かいような、歯痒い感触にルックは頭を振り回す。
「何を買うんだ? ルック」
アスフェルは目隠しを外さずに囁いてくる。携帯はいつからか電子音が聞こえるだけになっていて、無意味に耳へ押し当てたままアスフェルの腕に背後から縛られている。うなじにかかるアスフェルの息。ルックはぞっと嫌悪感でない鳥肌を立てた。
携帯の画面はどうなっているのか、妙なことが気にかかる。そうやってアスフェルが密着しているこの状況から目を逸らしたいのだ。でないとバレてしまうから。
「僭越ながら、当てられると思うよ。ルックの繁華街でのお買い物」
「違う」
「まだ言ってないだろう。――俺への、誕生日プレゼント?」
「ちが、」
「いらないのに。いや、ルックがくれるものなら石ころでも嬉しいんだ。わざわざ寒い中買いに出なくたって」
「ちが……わない……」
「何を選んでくれるつもりだったのか、聞いていいかな」
「……だめ」
やっぱり見透かされていた。
昨日からあれこれ悩んではずっとそわそわしていたし、バレないわけがないとは覚悟していたのだ。不慣れなことをするんじゃなかった。気まずさと恥ずかしさで今すぐ消えてしまいたいくらいだ。
けれど、アスフェルの、ルックを抱く腕にぎゅっと息詰まる力がこもる。
「口出しはしないから、付いて行っても」
「……」
「金も、態度にも、出さない」
「……うん」
アスフェルの両手は未だルックの瞳を覆い、人通りの多さをルックは意識せずにすんだ。いつもより素直に頷ける。
アスフェルと正対しなければ割と素直になれるらしい。自己分析してルックはこっそり苦笑する。
デートみたい、とはさすがに率直すぎるため、すぐに頭から追い出した。
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