途中だけど書けたとこまで上げときます!
一瞬の後、俺はビルの屋上にいた。
「……ここは」
「見ての通り、地上三十メートル余」
アンテナが数本あるだけの殺風景な屋上である。柵やフェンスの類どころか、出入口らしき扉もない。代わりに鉄製の丸い蓋がマンホールのように点在していて、どうやらこれが業者の作業用として最上階の天井と屋上を結ぶ穴のようだ。
呆気に取られていた俺は、思わず頬をつねっていた。
「瞬、間、移動?」
「まさか僕らが人間みたいにちんたら歩いたり乗り物を使ったりするとでも?」
「俺まで移動させることができるのか」
「まぁ、数人程度ならね」
俺の傍らへ寒そうに立つ死神は、そう言いながらどこか得意げな顔をする。感嘆されるのが嬉しいらしい。
俺は死神の青白い面をまじまじと見下ろした。
このいかにもひ弱そうな少年が汗水垂らして歩くところは確かに想像し難かったが、代わりに俺は、彼の華奢な背中で羽ばたく白い翼を想像していたのだ。そう、地上に舞い降りた黒衣の天使。ところが残念なことに彼は飛行せずテレポーテーションをしてしまい、俺は妙にがっかりした気分を味わっている。天使と死神は異なる存在ということか。それとも、死神は実在するが天使は架空なのかもしれない。
俺は彼を覗き込むことで彼に説明を促した。死神と知っていてなお天使と見紛う清らかな瞳を持つ死神は、冷たい風に弄ばれる金茶の髪を手首で押さえつけながら、懐中時計を再び手のひらへ取り出した。鎖を首でしゃらりと鳴らす。
「あと八分」
懐中時計に目を落とし、次いで俺を見すえる死神。
綺麗だ。人が足を踏み入れること適わない山麓に潜む清流へ、しなやかに芽吹いた木々の若葉が映り込む。乱反射する木漏れ日、さらさらとしたせせらぎ、水面を掠め飛ぶ水鳥の風切り羽で弾く雫。
続く台詞に思考停止させられるまで、俺は彼の瞳に引き寄せられていた。
「今から八分後。あんたには、ここから自殺してもらう」
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