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夕 凪 大 地

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「偽」

弟ーーーーー!!!!!

…と思った皆様のために、兄ティエ前提弟→ティエな弟アニュを成立させてみた(爆笑)


ご退院おめでとうございますの某様へこっそり捧げさせていただきたいと思います。
アニュを無視した本格派ロクティエもきっちり書き上げたいです。




 夜間飛行するトレミーは、まるで無人機のように物音ひとつしなかった。宇宙空間にいるからというだけでなく、皆が寝静まり、かつ各ブロック、各部屋ごとに完全密閉される宇宙船の構造上、副産物として備わる高い防音効果のせいである。照明を落としたティエリアの部屋も耳の痛くなるような冷たい静寂に満ちている。
 否、たった今まで静寂には程遠かったのだ。それが途切れた途端にどっと静寂が押し寄せて、ティエリアは身の痺れる無音をひりひりと味わっている。
 ベッドの縁へ浅く腰掛けたまま身動ぎひとつできないで、ティエリアはゆっくり、溜息の塊をしんとした部屋に吐き出した。
「……まぁ、そういうことだから」
 向こうから溜息が重なって落ちる。そういうこと、と今しがた語り終えた内容を一括りにし、部屋のドアに凭れたままのロックオンが再び静寂に切れ目を入れる。
「俺はお前にこだわりすぎてた。認めるさ、俺はずっと兄さんの影をライバル視してたんだ。けどもう俺にはアニューがいる」
 アニューが、とロックオンは繰り返す。
 ロックオンを――ティエリアの知るロックオンの双子だという弟を、ティエリアは受け入れられなかった。声も仕草も何もかもすべて生き写しに似ていたけれど、たったひとつ、決定的な違いがあったのだ。それはティエリアの心にあった。五年前に死んだロックオンは、ただそこにいるだけでティエリアをざわめかす譲れない何かを持っていた。
 消えて初めて喪失の量に気づかされ、しかし彼はもう戻らない。ティエリアは苦悩し、今もまだ悲嘆から抜け出せずにいる。
 だから、目の前にいるロックオンへいくら好きだと言い募られても拒絶するより他に為す術がなかったのだ。彼がますます兄を意識し歯止めがかからなくなることくらい重々分かっていながらも。
「お前には、迷惑かけちまったな」
「……」
 さばさばと笑むロックオンへ、ティエリアの胸が潰される。
 同じ顔で言われたくない。同じ顔の彼に会いたい。あの、ロックオン・ストラトスに。
 ティエリアは深く俯いた。零れる涙をロックオンなどに決して晒したくはなかった。どうして、と心で叫び、ティエリアは唇を噛み締める。
 ドアから離れないロックオンの表情が偽る痛みに歪んでいるのを、ティエリアは見ようとしなかった。


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